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ライオンの群れへのご挨拶

辛辣令嬢の続編です。お楽しみくださいませ。

 ズーラウンド王国の王城内。

 今日は王家の家族が集まる特別な晩餐会。


 その中で一人のご令嬢が眼福の極みに落ちていた。


 その令嬢の名はシーラ・ランツ。

 ふわふわの赤茶色の髪に、薄緑色の瞳。

 ちょっとだけ釣り上がり気味の瞳はまるで猫のよう。


 彼女は一見大人しそうな外見をしているが、父アティカスを言い負かすほどの口達者な面を持つ、極々平凡な伯爵令嬢だ。

 

 ひょんなことから王妃ガブリエラに気に入られたシーラは、第二王子の婚約者になった幸運な女の子。


 そんなシーラに付けられた二つ名は辛辣令嬢。


 女傑道を突き進む、どこにでもいる12歳の女の子だ。


 今宵、王家の方々が第二王子の婚約者であるシーラの為に学園入学祝いの晩餐を開いてくれた。


 ただの婚約者でしかないシーラの為に、忙しい王族が皆集まる。

 シーラを可愛がっているのがそれだけで分かると言うもの。


 シーラ自身も英雄伝や女傑伝を嗜む身として、その重要性がよく分かっている。


 平々凡々、普通なランツ伯爵家出身のシーラを、守る意味もあってのこの晩餐会。


 学園でシーラに何かしようものならば王家が黙っていない。そう表明しているものだった。


 だが今のシーラは憧れの方々を前に、王城の美味しいごはんを食べる一人のご令嬢に過ぎなかった。




「シーラ、入学試験では首席だったそうだねー。おめでとう、私も義理の父となる身として鼻が高いよ」


「国王陛下ーー」

「シーラ、義父様だよ、義父様」

「はい、義父様、ありがとうございます。お褒め頂き光栄でございます」


 ただでさえ細い目を糸のように細くし愛眼を崩すのは未来の義父、ズーラウンド王国の国王ウィルフレッド・ライオネスだ。


 遠くから見たその姿はまるでとうもろこしのようだと感じていたシーラだったが、近くで触れ合ううちにライオンと馬ととうもろこしを足して三で割ったような人物だと、ウィルフレッドのことをそう見ていた。


 常に笑顔ながら、その笑顔には圧があり、国王としての貫禄があるとシーラはウィルフレッドのことを尊敬している。


「あなた、当然ですわよ。シーラは間も無く妃教育を終える才女ですのよ。学園入学程度の問題など寝ていても解いてしまいますわよ」


 オホホホと楽しげに笑うのは、シーラのミューズでありこの国の王妃であるガブリエラ。


 ゴウジャス美人といえるその風貌は、まさにシーラが想像する女傑そのもの。


 憧れのガブリエラの影響からシーラが変装を嗜むようになったのは、ここだけの秘密。


 そんなガブリエラからの賛辞にシーラは笑顔で礼を述べる。頑張って良かった。そう思えるほどミューズからの言葉は嬉しかった。


「だが学年代表の挨拶は次席のジェームズ・バードに譲ったんだってね。シーラ、なんでだい?誉だろうに……」


 国王によく似た細い目をシーラに向け質問してきたのは、王太子である第一王子のウィルバー・ライオネスだ。


 その見た目は国王と王妃を足して二で割った丁度半分な感じ。ライオン寄りのとうもろこしといったところだろうか。


 シーラはウィルバーの言葉に「はい」と返事をし、「私の弟子には度胸をつけてもらいたかったのです」と答えた。


 師匠として弟子を谷底に落とし鍛えるのは当然の行為。

 ジェームズに入学の挨拶をするようにと伝えた時、ジェームズは半泣きになっていたが、そこは鬼となって譲らなかったシーラ。流石師匠と言えよう。

 

 そんな泣き虫ジェームズがシーラの弟子(友人)であることはここに集まる皆も知っていること、「それに成績も一点の差しかなかったのです」と師匠としてシーラが弟子の快挙を誇らしげに答えれば、また皆愛眼を崩す。

 

 王子二人よりも少し歳の離れているシーラは、皆にとても可愛がられているのだった。



「シーラのもう一人の弟子(友人)は三年生だったかしら?来年から近衛になるほど優秀なのでしょう。それにお義母様のご友人の娘との婚約もまとまったようですし、シーラも嬉しいでしょう?」


「はい、グレース様、サイラスはブレンダ様と婚約いたしました。今はまだ猿に金貨に近い状態ですが、サイラスは剣の腕 (だけ)は優秀ですので将来有望です。何分この私が鍛えた弟子ですので、期待値が高いと思います!」 


「まあ、オホホホ」


 グレースとは王太子ウィルバーの妻であり、王太子妃でもあるシーラの未来の義理姉だ。


 大国ビリジアン王国から嫁いで来た王女で、銀色の髪が輝く、月の女神のような美しい女性だ。


 一目見た瞬間からシーラの中のヒロインのイメージは彼女になった。

 儚げで守りたくなるような風貌なのに芯が強い女性。笑い上戸なところがまた可愛らしく、シーラの胸をギュッと掴んで離さない。


 一度でいいから罵って踏んで欲しい。


 そんな感想が湧くほどグレース王太子妃は魅力的な人だった。


「シーラが優秀なのは皆分かっていた事でしょう、なのでその弟子(友人)たちが優秀なのは当然です。シーラが鍛えているのですから、ね、シーラ」


 バチンコっとシーラに笑顔付のウィンクを送って来るのは、シーラの婚約者ウィリアム・ライオネスその人だ。


 年齢はシーラより10歳上。

 だがいつまで経っても少年のような美しさを持つ、美丈夫な婚約者だ。


 シーラ的にはもう少し体毛の濃さが欲しいところだし、顎髭も欲しかったりするのだが、ウィリアムには似合わないような気もする。


 それに身長もあと15センチほど伸びて二メートルくらいにはなって欲しいし、体重もあと50キロぐらい増やしてムキムキして欲しいと思うが、やはりウィリアムには似合いそうにないので諦めた。


 そんな王子様道を突き進む婚約者にシーラは笑顔を返す。


「ウィリアム様が勉強を見て下さったおかげです」と言えば二人の仲の良さに未来の家族も嬉しそうだった。


「ウィリアムが勉強を教えたのか、ハハハッ、シーラ大丈夫だったかい?ウィリアムの説明でちゃんと理解出来たか?」

「父上」


 とうもろこし国王があははと笑い、ウィリアムがちょっとだけ拗ねた顔を披露する。


 シーラがいなければ王族内では末っ子なウィリアム。

 家族から揶揄われるのは定番な事だった。


「はい、ウィリアム様はとても優しく、分かりやすく教えてくださいました」

「うんうん、そうか、そうか」


 好々爺のように顔を崩すトウモロコシな国王。

 そしてニコニコな家族に照れる婚約者。


 なんて眼福なのでしょう!とシーラのテンションも上がる。


「ウィリアム様は時には手をとり、足をとり、抱擁つきで教えてくださいました」

「足?!!」

「抱擁?!!」


 突然の爆弾発言に家族皆の鋭い視線が一気にウィリアムに向かう。和やかなムードも消し去り緊張状態だ。


 そんな中いやいや違います!と首をふるウィリアム。

 だがシーラが嘘を吐くはずはないため、ウィリアムは過去の行いを思い返す。


 うん、確かに手は触った。それは仕方がない。だが足は……靴を履かせたかもしれない。

 抱擁は、幼い子の頭皮の匂いに誘われて抱きしめた可能性は高い。


 焦るウィリアムに向ける家族の視線は冷たい。まだ少女と呼べるシーラに何をしているんだ!そんな非難の視線だった。


「それにウィリアム様の出す問題に全問正解すればご褒美のキスがーー」

「シーラ?!」


 慌てるウィリアム。

 決して口付けなど落としていない。ぷくぷくの頬やつるんとした額にのみの口付けだ。

 だが手足抱擁とくれば怪しさ満点。母や義理姉の視線が痛い。射殺せる。そんな視線がビシビシ飛んできて胸が苦しい。


「それにウィリアム様は私を膝の上に乗せてくださってーー」

「シーラ!まってまって、お願い、まって!!」


 可愛いシーラを膝の上に乗せ本を読んであげた懐かしい思い出。


 それは学園入学前、去年までの話だが、ここまでくるともうウィリアムは変態王子決定だ。


「……ウィリアム……あとで大事なお話しがありますわ」


「……はい……」

 

 圧のある笑顔を浮かべる母ガブリエラ。

 ウィリアムは項垂れながら頷くしかない。当然だろう。


(ふぉおおー、ガブリエラ様、今日もカッコいいです!)


 母を見て目を輝かせる婚約者シーラを横に、変態王子ウィリアムはガックリと肩を落とすのだった。

こんばんは、夢子です。

新作よりも先に辛辣令嬢の続編を書いてしまいました。宜しければ読んで頂けたら光栄です。シーラも十二歳。少し成長した部分を楽しみ下さいませ。

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