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Part.5

昨日上げたつもりだったのですが、できてなかったようです。すみませんでした。


「本格的にお腹空いてきましたね。そろそろ、食べ物ですかね」


 一通り、縁日を見て回ると、ようやくゴーサインを出してくれた。俺は昼から腹が減っていたぞ。誰かに止められていたからな、今じゃ空腹は通り過ぎてしまった。


 だが、微妙な空腹感を抱いていたのは俺だけだったようで、


「そうね、お腹空いた!」


 と、亜子も岩崎に賛成。早速向かったのは、たこ焼きだった。


「やはりたこ焼きは抑えておかなきゃいけないですよね。あと、焼きそばとやきとり、焼きとうもろこし。あとは……」

「そんなに食べるのか?買うだけ買って食べれません、って言うのはなしだぞ」

「大丈夫ですよ。これくらい余裕です。ね、亜子ちゃん」

「余裕よ、余裕。あたし、育ち盛りだし」


 確かに亜子は育ち盛りだな。だが、岩崎は育ち盛りだろうか。女子の成長期について詳しい情報を持ち合わせていないが、男子よりは早く終わってしまう気がする。イメージでは中学までな気がする。つまり、こいつは、


「何ですか、じろじろ見て。私は食べ盛りなんです!」


 やはり育ち盛りではなかった。ここで言うべきセリフがあるのだが、俺は、


「そうか」


 と言って終わらせた。太る太らないなんていうのは、本人の気持ち次第だ。太って困るのは自分自身だし、今日食べたからと言って、明日太るわけでもない。加えて、今日は昼食抜いているし、まだ時間も早い。だからどうというわけではないが、ま、勝手にすればいいんだ。なので、特に何も言わず、自分の分のたこ焼きを買うことにする。


「あたしも食べたい」


 そういうのは、買う前に言ってくれよ。もう一度買うのは面倒だな。財布も仕舞ってしまったし。しょうがないので、今自分のために買ったたこ焼きをあげることにする。


「いいの?」

「ああ」

「ありがとう」


 俺から入れ物を受け取ると、早速一つ口に運んだ。はふはふ言いながら一つ目のたこ焼きを完食すると、顔を上げて、


「普通ね」


 と一言。ずいぶん辛口だな。それでは作った屋台の人も、自分の分を上げた俺も、浮かばれないじゃないか。


「これで、六個入り五百円なの?高くない?」


 確かに高い。というか、祭りの屋台なんてみんなそんなものだ。


「確かに高いですよね。これが駅前とかでお店を構えていても、絶対買わないと思います。ですが、お祭りだと買ってしまうんですよね」

「何で?」

「それはお祭りマジックです!」


 見事に言い切ったな。俺は他に食べるものがないから、という理由なのだが、岩崎が違うようだ。


「お祭りマジック?」

「ええ、そうです。普段は静かであまり明かりもないようなところが、こうやって屋台の明かりと、人の賑わいで、とても楽しい空間になっています。周りから聞こえてくるのは、楽しそうな笑い声ばかり。こうして、笑顔と笑い声に囲まれていると、こっちも楽しい気分になってきます。そんな中で食べるものは、やはり格別おいしいです。料理の味付けは、調味料だけじゃないんですよ」


 どこまでもきれいごとばかりを口にする岩崎だが、なぜだかこいつが言うと、きれいごとでなく、真実のように聞こえるから不思議だ。俺が言ったら、こいつは何を言っているのだろう、とばかりに無視されてしまうのが関の山だ。しかし、満面の笑顔で岩崎が言うと、なぜだか違うのだ。その証拠に、亜子は周りを見渡し、そして、もう一つ口に運ぶと、


「確かに、おいしいかも」


 と答えた。味が変わったわけではない。むしろ、冷めた分だけうまくなくなったかもしれない。しかし、亜子の感想は先ほどのものとは違っていた。これは祭り効果というより、岩崎効果と言えるだろう。こういう点でも、岩崎は変なやつだと確認できるな。いい意味で、な。


「さ、この調子でどんどん食べましょう。あ、遊びも忘れちゃいけませんよ。射的は、二つの意味ではずせませんね。私の、型破りな型抜きをご覧に入れましょう」


 こういう岩崎が一番楽しんでいるように見える。正しく祭りを堪能していると言えるだろう。型破りな型抜きって一体なんだろうか。


 花火前の祭りは盛り上がりを見せていた。しかし、楽しいだけというわけにはいかなかった。忘れていたわけじゃなかったが、亜子は遊ぶためにここにいるわけじゃなかった。



「わっ!どうしたんですか、亜子ちゃん」


 手をつないで、前方を歩いていた二人だったが、突然立ち止まると、亜子が岩崎に抱きついた。


「どうしたんですか?突然」


 驚いて咄嗟に引き離そうとする岩崎。俺は周りを見渡しながら、二人に近づいた。


「静かにしろ」

「え?」


 ぐるっと見渡すと、一人の男が視線に入る。そいつはスーツを着ていた。縁日に一人出来ているスーツ姿の男。別にないことはないが、不自然ではある。そいつは辺りを見渡している。誰かを探しているのだろう。断定は出来ないが、亜子の様子を見ると、ほぼ間違いないだろう。考えてみると、怪しすぎるだろう。例え、亜子を捕まえることが出来たとして、亜子が騒げば、自分が捕まってしまう。誘拐なのか、何なのかまだ解らないが、もっと目立たないようにやるべきじゃないか?自分が何をしようとしているのか、解っているのだろうか。


「成瀬さん、あの人もしかして」

「ああ。たぶん、亜子を追っているやつだろう」


 これだけの人ごみだ。たぶん見つかりはしないだろう。だが、用心するに越したことはない。


「立ち止まっていると、怪しい。とりあえず進もう」

「そ、そうですね。行きましょう」


 亜子はうつむいたまま、首の上下だけで答える。岩崎から離れると、もう一度手をつなぎ直して、歩き出した。


「早いとこ、お面を買う必要があるかもな」

「そうですね。では、お面屋さんに向かうことにしましょう」


 言葉遣いが硬くなっているな。先ほど、自分で何て言ったか、忘れてしまったのだろうか。


「周りは笑顔と笑い声ばかりで、こっちも楽しい気持ちになるんじゃなかったのか?」

「え?」

「そんな顔をしていると、逆に怪しいぞ。そんなに緊張するな。せっかくの祭りが台無しだぞ。楽しめよ」


 俺の言葉に、二人が同時にこちらを見る。俺は岩崎に言ったつもりだったのだが、見上げてきた亜子も同じような顔になっていた。


「そんな場合じゃないような気がするんですが……」

「今年最後の花火大会だぞ。今満喫しないでどうする」

「しかし、亜子ちゃんが追われているわけですし」

「ごめん。二人を巻き込んじゃった」

「あ、いえ、亜子ちゃんが悪いというわけではないのですが」


 とりあえず楽しめていないのは間違いないな。それでは何のためにここにいるのか、解らなくなってしまうぞ。誰だか知らない輩に邪魔されて、せっかくのお祭り気分が台無しにされてしまったら、きっと悔しいだろう。


「周りの気配りは俺がするから、お前たちは何も気にせず楽しめよ。あんた、今日のことを楽しみにしていたんだろ。亜子も、今日は精一杯わがまま言うんじゃなかったのか?このままじゃ、二人とも不完全燃焼で終わってしまうぞ」

「…………」


 俺の言葉に黙り込む二人。そんなに連中が怖いのか、それとも俺が信用できないのか。よく解らないが、しばらく黙って歩いていた。そして、お面屋の前にたどり着いたとき、ようやく口を開いた。


「解りました。せっかくですし、本当に楽しみにしていたので、お言葉に甘えて精一杯楽しむことにします。でも、これだけは言わせて下さい」

「何だ?」

「成瀬さんも、楽しんで下さいね。でなければ、私は精一杯楽しめません」

「………………」


 変なことばかり気にしやがって。俺は最初から乗り気じゃないから、全く気にしなくていいんだよ。どんなに頑張ったところで、楽しめるかどうかも怪しいしな。それに、実際のところ、


「俺はすでに結構楽しんでいるぞ。祭りなんて久々に来た。たまにはこういうのも悪くない。まだ祭りが始まってから大して時間が経ったわけじゃないが、俺は結構お祭り気分を満喫している。だから、大丈夫だ」


 たまには、というところがポイントだ。一夏に、何度も来たくはないな。人ごみってやつは、いるだけで疲れる。こういうのを、人に酔うって言うんだろうな。


「ほ、本当ですか?」

「ああ」

「そ、それならいいですけど。一応言っておきますけど、私は花火大会が楽しみだったわけではなく、成瀬さんと一緒に出かけることが楽しみだったんです。勘違いしないで下さいね!」


 ふんとばかりに、怒ったそぶりとともに顔を逸らした岩崎。興奮しているせいかセリフが間違っているぞ。普通は、『俺と一緒にいることが楽しみだったわけではなく、花火大会そのものが楽しみだった。勘違いしないで』と言うところだろう。全く逆になってしまっているぞ。ま、深く考えないようにする。亜子がもっと考えてやれ、と言っていたが、今回は深く突っ込まないほうが吉だろう。


「ちょっと!あたしを無視して、いい雰囲気にならないで!」

「べ、別にいい雰囲気になったりしてませんよ!あと、亜子ちゃんを忘れたりしてません!」

「明らかに後付じゃない!」

「まあまあ。とりあえずお面を買いましょう。さあ、亜子ちゃん。どれがいいですか?」

「だから、無視しないで!」


 完全に焦っているような雰囲気の岩崎。亜子の言う、いい雰囲気、を作り出したのは、間違いなくお前だぞ。焦るなら、あんなこと言うなよ。面白いくらいに、取り乱している岩崎だったが、俺は特に触れないでおく。たぶん、今からかうとかなり面白いことになるだろうと思うが、あのセリフはからかってはいけないような気がする。なので、俺は、


「自分に注目が集まっていないからって、そう怒るな。そういうところは、本当にお子様だよな」


 こいつをからかうことにする。しかし、


「今日のあたしは、お子様なの。そう演じろって言ったのは、あんたでしょ」


 と見事に返された。違いないな。これは一本取られた。


「そうだったな」


 肯定するしかなかった俺だったのだが、


「そうね。確かにあんたが忘れてしまうのも、無理ないかも。あたし、全然わがまま娘じゃなかったわね。演技がなってなかったわ。今からもっとわがまま言うから。もっとちゃんとわがまま娘を演じるから、安心して!」


 さらに追い討ちを掛けられた。前言撤回。どう見てもお子様には見えない。本当にお子様だったら、こんな小気味いい会話は楽しめないだろう。今は演技力が買われているらしいが、トーク力も中々だぞ。素の牧村亜子を解放してやれば、もっと人気者になるような気がする。学校でも、芸能界でも。




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