8.福祉施設
俺は、福祉施設の集団部屋に設置されたベッドの一つに寝かされていた。
朝起きると、イモや雑穀のような食事を与えられ、自力で食べられない者は放置されていた。
全身を激痛が走ったが、まだ死にたくないので、どうにか食事を詰めこんだ。
量が足りないように思えたので、繰り返しお願いして、自力で食べられない者の分の食事をもらうことさえあった。
施設に来るボランティアの医師に診てもらったら、腰の骨と神経が深いところまで傷ついており、手術をしないと治らないだろうと言われた。
手術をしない限り、このまま寝たきりで、衰弱していくしかないと。
しかし、手術をするには、冒険者として働いていた頃の3ヵ月分くらいの給料が必要で、今の俺にはどうしようもなかった。
一日に1回、施設の職員が見回りに来て、寝たきりのまま死んでいる者を片付けていく。
そして、次の入所者たちが運び込まれてくる。
俺は寝たきりのまま、冒険者だった頃のことを思い出していた……。
★
「勇者は分かるけど、あんたみたいな大男が、どうして冒険者をしてるの?」
リリーナが仲間になって、どうにか打ち解けてきた頃、彼女から聞かれた。
リリーナは僧侶でありながら体力作りもしていて、縄跳びをしていた。
彼女がピョンピョンとジャンプするたびに、スカートの下から太ももが見えた。
『……小作農になるか、どちらかしか無かったから』
「そうなんだ。私も、冒険者をしてたら、なぜか売春宿で働いていたし、人生って分からないものだよね?」
『……』
「……もう! 大男も、少しは何か喋ってよね!」
福祉施設の部屋の明かりが消されるのは早い。
暗くなった部屋で、彼女が飛び跳ねる姿を思い出し、柔らかそうな太ももを心に浮かべながら、俺はゆっくりシゴいていた。
★
「役立たず! テメー邪魔なんだから、遠くに行ってろよ!」
パーティに新しく加わった仲間の一人からそう言われたのは、彼らが加わり、何日か経ってからのことだった。
俺が戦闘に加わると、リリーナが防御魔法や回復魔法を延々と使わされる。
それで盾になれるならまだ良いが、防御魔法を張っても一撃で吹き飛ばされ、ケガをして、回復魔法を使わされる。
俺が死なないため、リリーナが付きっきりになるような状態で、実質的にパーティが2人欠けるのと同じになるのだった。
パーティ全員で話し合った結果、俺は、荷物持ちとして、仲間の遥か後方で待機することになった。
仲間がダンジョンに入る時は、ダンジョンの外で待っている。
砂漠で戦闘する時は、魔法が届かないよう遠く離れて、障害物の後ろに隠れ、重い荷物を持っておく。
★
「それじゃ、大男は役立たずになるけど、それでもいいの?」
全員の会議のときには黙っていたリリーナが、俺と2人になってから声を掛けてきた。
『……』
「ここまで言われても、冒険者なんかでいたいの?」
『……』
「もう! ちゃんと喋らないと、何も伝わらないんだよ!」
リリーナは、俺と勇者しか居ないところでは、コミュニケーション代わりに「役立たず」などと言ってきたが、他のメンバーが居るところでは、そういうことは言わなかった。
彼女の声を思い出し、彼女が売春宿であえいでいるところを想像しながら、俺は、今日もシゴいていた。