6.小作農2
ある程度の畑を耕したところで、イモや野菜、果物の種を植えていった。
結局、小作農になるなら、幼い頃だけではなく、中学校を卒業した後も両親から農業を教わっていればと思ったが、その頃には両親はアル中気味で、仕事を教われる状態ではなかった。
冒険者なんか目指さなければよかったとは、今だから言えることで、その頃は、小作農をするより遥かにマシな生活を送れると思っていたのだ。
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もう20歳を超えていた「野犬専門」の俺たちに変化の兆しが表れたのは、回復魔法を使えるリリーナが仲間に加わってからだった。
リリーナは、俺たちと変わらないくらいの歳だった。
他の冒険者パーティに所属していた彼女は、そこの「勇者」に惚れていたものの、遊ばれた挙句に捨てられ、他の仲間の女性の策略で、売春宿に売られたという。
シャブ漬けにされ、1年くらい売春宿で働いていたが、精神状態がおかしくなり、裸で街をうろついていたところ、警察に保護された。
シャブを止めて、少しまともになったところで、自分が僧侶であることを思い出し、再び冒険者になって借金を返していこうとしたが、まともなパーティは彼女を仲間にしようとしなかった。
仲間にしてくれそうなパーティも、彼女を再びシャブ漬けにして売春宿へ売り飛ばそうとする者としか思えなかったので、俺たちのパーティに加わったのだという。
当時のリリーナが述べていたのは、「俺たちのパーティには違法行為の記録が一切無く、2人とも地味でオドオドして弱そうだったし、いざとなったら簡単に逃げられそう」ということだった。
回復魔法を使えるリリーナが加わってから、俺たちの行動範囲は広がり、勇者が経験を積める機会も増えていった。
俺と勇者の2人でリリーナを守ることに専念し、俺たちが傷を負ったら彼女が回復し、金を稼いでは、彼女の借金を返していった。
勇者は経験を積み、より勇者らしくなっていった。
リリーナは売春宿への借金を完済し、明るい性格になり、スカートの丈も短くなっていったので、俺は目のやり場に困るようになった。
一方、俺の成長は既に頭打ちで、鎧や盾を買い替えようが、身体についていく傷が増えるくらいだった。
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畑に作物を植えたところで、他の荒れ地を耕し、別の作物を植えていく。
作物を植えたところには水と肥料をやり、地道に雑草を抜いていく。
誰と話すわけでもなく、地道に、同じことの繰り返し。
そして、時間が経ち、最初に植えた作物を収穫できそうになった。
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俺たち3人のパーティが更に変わったのは、勇者が「聖剣」を手に入れてからだった。
リリーナが加わって2年くらいした後、世界中で、上級の冒険者パーティが次々と虐殺されていく事件が起きた。
あるパーティは街の外れで、別のパーティはダンジョンの奥で、森の中でと、理由も分からないまま、冒険者内でもランクが高いパーティが次々と殺されていった。
そして、ギルドの依頼で盗賊退治をしていた俺たちは、街の外れで全滅しているパーティを偶然見つけ、亡くなった勇者が握っていた聖剣を「継承」したのである。
聖剣は、勇者以外の人間が握ると拒絶反応が出るので、俺とリリーナは触ることすらできなかったが、勇者だけは平然と握ることができた。
そして、犯罪行為とされないように、冒険者ギルドにも届け出て、聖剣を正式に引き継いだ。
世界中で一定の数しかないと言われる聖剣を手に入れたことで、俺たちのパーティは名声を手に入れ、新しい仲間が加わっていったのである。
……だが、俺にとっては、それが「終わり」だった。
新しく加わった仲間からは、コイツは何のために居るのかという目で見られるようになった。
レベル10から成長せず、ドラゴンの炎どころか、サーベルタイガーの牙すら避けられず、まともに食らったら一撃で死んでしまうのが分かっている俺では、盾になることもできず、パーティの遥か後方で、荷物持ちをするしかなくなった。
そうして、半年もしないうちに、クビを宣告されたのである。