4.田舎への帰郷
翌朝、冒険者ギルドで、メンバー登録抹消の手続きを済ませてから、俺はパーティと別れた。
リリーナを見ると、他のメンバーの男と冗談を言い合っている。
短いスカートをはいたリリーナの尻を、他の男がふざけて叩くのを見て、俺はなぜかボッキしてしまい、ポケットに手を突っ込んでゴマ化したが、特に誰にも見られなかったようだ。
別れる間際、他のメンバーは俺に背を向けていたが、リリーナだけは小さく手を振ってくれた。
もう二度と、彼らと会うことも無いのだろう。
一人で冒険者をしても、自分の強さでは魔物に殺されてしまうだけだと思い、俺は故郷に帰ることにした。
両親が小作農として生活していたので、後を継いで、自分も畑を耕して生活するしかないと思った。
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しかし、故郷に帰ると、あばら家のようになった実家の家には、誰も住んでいなかった。
家の周りの畑も荒れ放題になっている。
街の人に尋ねると、父は死んでしまい、母は福祉施設に預けられたのだという。
土地を借りているお金を地主に払わなければならないのだが、それも長期間滞納しているという。
両親の生活費の足しになるようにと、故郷には毎月、給料の半分を送っていたはずなのに。
母が預けられた施設を訪ねると、貧困者向けの部屋で寝たきりになっている母は、俺を怒鳴りつけてきた。
「あんたが少ししかお金を送らなかったから、肥料が買えなくて、畑が荒れ放題になったんだ! 地主さまへの小作料も払えなくなったんだ、役立たず!」
俺は、何も言えなかった。
「何か言ったらどうなんだ! 冒険者になると言って出て行ったが大成せず、帰ってきたくせに! 何の取り柄もない一般庶民が、勇者様のパーティでお役に立てるはずがないんだよ! ウドの大木が!」
たしかに。
必死で身体を鍛えて、戦士としてパーティに入れてもらったのに、ロクに活躍できなかった俺には、反論しようが無かった。
他の冒険者は魔法やチートスキルを使って、強そうな魔物を倒していくのに、幼い頃から身体を鍛えただけの俺は、冒険の初期以外ではほとんど役に立たなくなり、最後は、荷物持ちをするしかなくなっていた。
俺には何も無かった。
勉強ができるわけでも無かったので、雇ってもらうとしても零細企業くらいだったが、幼い頃から農業と冒険者くらいしかしてこなかったので、もはや働き先も少ない。
他には、清掃員か警備員くらいしか思いつかなかったが、実家で農業をするのと、どちらが良いのだろう。
俺にも、魔法やチートスキルが使えたら。
俺にも、魔法やチートスキルが使えたら。
しかし、そんなものは俺みたいな一般人には使えず、使えないからこそ、使える人はこの世界で価値が有るのだった。
「大男! 役立たず! 実家に帰ってきたと思ったら、無職になって! なんだこのハシタ金は! 小作料を払ったら、これしか残らなかっただと!? それじゃ、このまま施設で骨と皮になって飢え死にしろってのか! この親不孝者が!」
俺は怒鳴られ続けるばかりだった。
僧侶のリリーナからもらったネックレスを売らないと、滞納した小作料を払えず、農業をする道具や肥料等を買えなかったので、売るしかなかった。
そして、残ったお金の一部を、お見舞いとして母に持って行ったのだった。
もはやどうしようもなく、怒鳴り続ける母に背を向けて、俺は施設を出た。
その後、俺が渡した見舞金で、母は酒やご馳走を買い込み、すぐに金を使い果たした後、死んでしまったと聞いた。