2.大男の門出を祝う会
「大男、あんた、とうとうクビになったのね!」
料理屋で案内された席に行くと、先に来て座っていた回復役の僧侶の女性であるリリーナが、声を掛けてきた。
『……』
小柄なリリーナは、太ももが露出した短いスカートをはいており、目のやり場に困ったので、直視できなかった。
それに気づいてか気づかずか、彼女は畳みかけてくる。
「何か言ったらどうなの、役立たず」
『す、すまない……』
「なんで大男は、いつもそうなの! これからはちゃんとしないと!」
それが、俺たちの「コミュニケーション」だった。
他人と何を話したらいいのか分からず、放っておいたら延々と無言の時間が続くからか、彼女は何か話しかけてくれることがある。
しかし、俺みたいな人間と話すような話題も特に無いからか、いつの間にか、こういうことを言われるだけの関係になった。
それでも、ほとんど口を利くことがない他の仲間と比べたら、「親密」な関係だったのだろう。
リリーナはそう言いながらも俺の隣に座ってくれたが、後から出席した細い目をした背が高い美人の女性魔法使いは、あからさまに俺から一番離れたところに座り、目も合わせようとしない。
パーティは全部で6人だったが、あと2人は欠席ということだった。
俺の向かい側に座った勇者の男が、今日の会について説明していた。
パーティのメンバーを入れ替えるため、俺に抜けてもらうことになったこと。
パーティの冒険はこれから厳しくなっていくが、抜けることになった俺も含めて、今後、頑張っていこうということ。
退職金として、3ヵ月分の給料を払うことにしたこと。
だが、退職金の話になったところで、今まで黙っていた魔法使いの女性が、声を上げた。
「現在のパーティの資金では、退職金を払う余裕はないと思います。
強くなってきている魔物に合わせて、装備を買い替える必要がありますし、次の土地の宿屋に泊まるための資金を取っておく必要もあります」
「それは分かるが、大男は、一緒に旅をしてきた仲間じゃないか。彼の今後のために、少しくらい無理をしても……」
声を上げたフラメンスに勇者が反論したが、それでは収まらなかった。
「第一、パーティの資金状態を考えると、今日のような食事会をしている余裕は無いはずです。そういうことをする余裕があるなら、私たちが泊まる宿屋をもう少しグレードアップすべきです。そうしないと、冒険の疲れが取れません」
「パーティの資金繰りについては、リーダーである僕が悪いと思っている……」
「……」
しばらくの間、無言の状態が続いた。
僧侶のリリーナは気まずそうに目の前の料理を食べ、魔法使いのフラメンスは俺には目を合わせず、勇者を直視している。
勇者は若干うつむき加減で、申し訳なさそうにしていた。
『べ、別に、俺の退職金を減らしてくれてもいいのだが……』
黙っておけばよいものを、俺は、そんなことを勇者に言ってしまう。
どうしてこういうときだけ、余計な口が動くのだろう。
「大男、すまない。僕が不甲斐ないばかりに」
勇者が謝ってくる。
フラメンスを含めて、何回かやり取りが続いた後、結局、退職金は支給されないということになった。
その後、4人はしばらく黙って食事をしていたが、魔法使いの女性は早々に席を立ってしまった。
背が高く、スタイルの良い後ろ姿で、深く切れ目が入ったロングスカートをはいている。
席を立つ際に、スカートの切れ目から見える細長く白い太ももが視界に入ってしまい、俺は、別の方向に視線を向けた。
勇者は俺たちに挨拶をして、フラメンスの後を追いかけていく。
そして、フラメンスに話しかけ、ペコペコとお辞儀をしていた。
彼女は勇者に向かって振り返り、微笑しながら言葉を返していた。