62.マジかよ……
「もっと魔法試したかったな……」
「仕方ないじゃない……貴族からの命令ってかなり重いんだから」
一応、腐ってもアルタール伯爵は貴族だ。
『伯爵』って付くのだから当然ではあるけれど。
しかしながら、彼の命令に従うのは乗り気ではない。
帰還命令だなんて言われても、本当に今更である。
「追い出したのはお前だってのによ」
今更戻れと言われても、俺にはもう居場所がある。
それに、あんな環境に戻りたいとも思わない。
「そろそろギルドだな……って、受付嬢さん入り口前で立ってないか?」
「立っていますね……しかも誰かを探しているような素振りを……」
俺は不思議そうに眺めていると、受付嬢さんと目が合った。
瞬間、こっちに急ぎ足で駆け寄ってくる。
「来ないと思っていましたよ! 全くもう!」
「え、もしかして俺が帰ってくるかどうかずっと外で待っていたの?」
「そうです! 帰ってこなかったらもう一度――今度は力ずくで連れ戻すしかないなって思っていましたから!」
「力ずくってどんな感じに?」
「力自慢の男たちを何十人か招集して向かわせようかなと」
「ふ、俺はその程度じゃあ連れ戻せないぜ」
「全員もれなく上半身裸、ブーメランパンツで追いかけてきます」
「……危うく色々と終わるところだった」
俺は嘆息しながら、頭をかく。
「それで、イダトはどれくらいで来るって言っているんだ」
尋ねると、受付嬢さんは肩を竦める。
「明日には着くと報告が入っています」
「明日か。でもそれなら俺、こんな急がなくても良かったんじゃないのか?」
まだまだ時間としては余裕があるように思える。
そこまで焦る必要はないようにも思えるが。
「全く……ギルドとしては大事なんです。貴族から命令が入るだなんてありえないことなんですから!」
「それはそう……か?」
「しかもアルタール伯爵、かなり怒っているようでしたから! 『リッターを守る真似をすれば、ギルドがどうなるか分かっているな?』と脅されているのです!」
「嘘だろ?」
「大マジです! なのでギルドマスターからはリッター様をイダト様が来られるまで、泊まり込みでも待機していただくよう命令が出ています! 下手すればギルド解体ですよ解体!」
ええ……マジかよ。
俺、責任重大じゃないか。
「これに関しては仕方ないわね。私たちも待機するから頑張りましょう」
「仕方ありません!」
「そうだな。二人がそう言うなら、俺も頑張るよ」
そう言って、俺はこくりと頷く。
「ご協力ありがとうございます! リッター様……! ギルドの命運は任せましたよ!」
たっく……アルタール伯爵の野郎……!




