61.嫌だよぉ……
「もう少し魔法を試してみたいんだけど構わないか? だって《絶対零度》しか使えなかったし」
ガマガエルの討伐を完了した俺は、少し休憩をしながらアンナたちに提案をしてみた。
やはりもう少し魔法を色々と試したいところだ。
完全に依頼から脱線しているから、報酬金以上の働きをすることになるが別に構わないだろう。
「いいよ! もっとやろう!」
「わたしも賛成です! リッター様の魔法をもっともっと見てみたいです……し?」
エイラは言いかけるが、途中で言葉を詰まらせる。
「あれ……? 受付嬢さん、走ってきてませんか?」
「嘘だぁ。こんなところに受付嬢さんがいるわけないだろ……」
俺は苦笑しながら、エイラが指さした方向を見る。
あれ……確かに誰かが走ってきているな。
ううん……いや、あれ受付嬢さんだ。
「マジだ……どうしたんだろ」
「何かあったのかな?」
俺たちが困惑していると、受付嬢さんがぜぇぜぇと肩で息をしながらやってきた。
もうふらふらとしている。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「そ、それがですね……! 本当に大変なことが起きまして……!」
受付嬢さんは焦りながら、俺にぐっと近づいてきた。
「あなたですよあなた!! 問題なのはあなたです!!」
「ええ……俺ぇ?」
「そうです! もう、こっちは本当にびっくりしたんですからね!?」
なんだろう……俺、何かしちゃったかな?
漫画でよくある無自覚系主人公的な思考になってしまうが、本当に自覚がない。
全く心辺りがない。分からん。
「アルタール伯爵がリッター様に帰還命令を出しています……! しかもしかも……! どうやら息子のイダト様がこちらに向かってきているようでして……!」
「嘘だろ? どうして今更……家族の縁はもう切ったはずなのにな」
「知りませんよ! と、とにかく急いでギルドに戻ってきてください! いいですね!」
そう言って、受付嬢がわたふたと王都へ逆走していく。
なんだか大変そうだなぁ。
「……さて、魔法の続きをしよっかな」
俺はパンと手を叩き、違う方を向くとアンナとエイラが手を掴んできた。
「いや、戻らないの……?」
「受付嬢さん……超テンパってましたが……」
「戻らないよ。大丈夫大丈夫、受付嬢さんがどうにかしてくれるさ」
「戻ろうよ!? あのままじゃ、全てが終わった後に怒られるよ!?」
「下手すれば殺されますよ!? 受付嬢さん、めっちゃ殺意こもった目でリッター様のこと見ていました!」
二人がぶんぶんと俺の手を握って抗議してくる。
「いや……だって面倒くさいし……」
「どうして!?」
「なにゆえ!?」
行きたくない。絶対に戻りたくない。
「はぁ……たっく、しゃーないな」
ただ受付嬢さんに嫌われるのは後々大変なことになりそうだし、ここは戻るとするか。
嫌だなぁ。




