59.リッターを囲え!
「こうやって近くの草原に出たのは初めてかもしれないなぁ」
俺は王都の町すぐそこの草原に出て、依頼対象であるガマガエルを探していた。
大抵遠くに出向いていたから、このように草原に出る機会はなかった。
「王都近くの草原は平和なんですよねぇ~ほのぼのします」
「昔はここでよく訓練をしていたわね。懐かしいわ」
「へぇ。二人にも下積み期間があるって、なんだか不思議だな」
二人は最初から強いって印象しかないから、どこか信じられないでいた。
「私たちだって努力したよ。もう本当に大変だった……」
「あの頃は苦労しましたねぇ……」
そう言いながら、二人は肩を竦める。
「お金もあまり稼げていなかったから、毎日パン一切れだったし……」
「死にそうでしたね……」
「やばいなそれ。よく動けたな」
「気合いだよ……!」
「です……!」
二人は苦笑しながら、肩を揺らす。
大変だったんだな。
俺なんてまだ貴族の家にはいたからマシだったのかもしれない。
こう考えてみると、俺はまだまだ努力が足りないな。
「そろそろ……あ、いた」
「うへぇ~気持ち悪いですねぇ……」
二人が指さした方を見ると、やけに大きいシルエットが見えた。
「本当にデカいカエルだ……」
目の前に、巨大な緑色のカエルが三体もいる。
しかもめちゃくちゃ体がぬるぬるしているし、目も気持ち悪い。
小さいカエルはまだ可愛く見えるが、これはただ怖いし気持ち悪いだけだ。
「まあいい! 試したくてウズウズしていたんだ!」
俺はそう言って、相手を見据える。
腕を目の前に突きだし、にやりと笑った。
「《絶対零度》ッッッ!」
刹那、俺の手のひらがまばゆく光る。
幾重もの魔法陣が生み出され、吹雪をまといながら回転を始めた。
そして――一瞬にして三体のガマガエルを凍り漬けにした。
「おいおい……マジか」
これほどまでに巨大なカエルを、一撃で凍らせてしまうだなんて。
さすがは最上位の魔法だ。
他のものとは比較にならない。
「ってか! 一体ずつ仕留めようとしたのに、一撃でやっちゃったじゃん!」
俺は嘆息しながら頭をかき、アンナたちの方へ戻る。
「……ヤバすぎない?」
「あの巨大な体を……一撃で……?」
「正直ヤバいよな。もう少し試してみたいんだけど、もっと魔物を探してみないか?」
そう言うと、二人は目を見開いて詰め寄ってくる。
「冷静すぎるよ! 今の相当ヤバかったよ!?」
「まさに賢者様です! 半端ないです!」
「いやいや……別に俺がすごいわけじゃないからな……」
俺がすごいのではなく、魔法がすごいのだ。
《ショートカットコマンド》があるから使えているだけで、別に俺は普通である。
まあ、こうして俺のことをすごいって言ってくれるのは嬉しいけれど。
「……やっぱりリッターは大物ね」
「そうですね。もっともっとリッター様を囲いましょう……」




