51.この人ヤバいかもしれない
「ルビーちゃんには言っていなかったけど、リッターって魔法を無詠唱で発動できるのよ!」
「すごくないですか!? 無詠唱ですよ無詠唱!?」
アンナたちが興奮気味にルビーに説明をしていた。
まあ……すごいって言っても、俺のスキルは外れなんだけど。
とはいえ、それは魔法を少ししか扱えなかった頃の話だ。
今は当たりまでは行かないものの、雑魚とは言えない性能になってきただろう。
「《聖者の剣》」
俺が言葉を紡ぐと、魔法陣が生成される。
そこに腕を突っ込み、剣を取り出して見せた。
「本当に無詠唱で発動した!? こんな真似できるの賢者くらいだよ!? さてはユーって賢者だったりする!? 身分を隠して平民たちに紛れ込む系のあれぇ!?」
ルビーがハイテンションでこちらに迫ってきた。
「顔……! 顔が近い……!」
というか、もう俺に大接近である。
俺の腕を掴んで、ぐっと顔をこちらに寄せてきている。
や、やめてくれ……!
俺は超絶陰キャでどうしようもないレベルのコミュ障だから、女の子にこんなことされると頭が真っ白になってしまう。
「俺はただの……! 平民だから……! これは俺のスキルで……!」
「スキルぅ!? やべー当たりスキルじゃん!! すげー!!」
やっと納得してくれたのか、俺から離れてくれた。
ぜえ……助かった。
危うく女の子に迫られて死ぬところだった。
いや、それはそれで幸せなのではと思ったけど気持ち悪いのでなしで。
「そしてそしてぇ! リッターが出した剣を見せて!! 早く早く!」
「あ、ああ」
相変わらず興奮気味のルビーが俺から剣を奪い去り、半ば扇情的な目で眺めている。
なんていうか……とろんとしている。
「うへぇ……しゅごいこの剣……精巧に作られてて……材質は何これぇ……? うふふ、うふふふふ……興奮しちゃう♡」
「……大丈夫かこの子?」
「多分大丈夫じゃない?」
「本当かエイラ?」
「恐らく大丈夫ですよ! ルビーちゃんはちょっとあれなだけで」
「本当かよ……」
しかし武具屋の人間が見蕩れてしまうほどってことは、この剣は本当にすごいものなのだろう。
国王様はいい魔法をくれたな。
感謝せねばならない。
「ぐじゅ……やべ、よだれが出ちゃってた……こほん! ともあれこの剣があるなら悔しいけどあたしの武器はいらないと思う! いいもの見せて貰っちゃったな……えへへ……」
「お、おう」
俺は剣を返してもらい、魔法陣の中に仕舞った。
しかし……この人は本当にヤバい人かもしれない。
人間って剣だけであんだけ興奮できるものなんだな……。




