5.勧誘は嬉しいけど、俺弱いよ?
近くの村まで案内された俺は、彼女の奢りで馬車に乗っていた。
女の子に馬車代を出してもらうのは申し訳ないんだけど、持っているお金なんて一銭もないから……。
「ところで君って魔法を無詠唱で発動していたよね? どうやってるの?」
「うーん……俺のスキルがそういう性質だから特に考えたことないかも」
「……君のスキルって《賢者》とかだったりする?」
「そんな大層なスキルじゃないよ。ただの外れスキル。実際、スキルが理由で家を追い出されたし」
そう言うと、彼女は目を見開いて驚く。
ありえないことを言っているような目で見てきているけど、俺は実際にこのスキルで追い出されたんだ。
まあ魔法を記憶するだけだなんて、あまり強いスキルじゃないのは事実だと思うけど。
「失礼かもだけど、君の両親って馬鹿?」
「馬鹿じゃないけど……嫌味な人だったかなぁ……」
あまり自分の家族はそう言いたくはないが、実際そうなんだよな。
アルタール伯爵は頭が固いし、イダトは馬鹿にしてくるし。
母さんはいつの間にか出て行ったけど、最後の最後まで俺のことを外れだと罵ってきたし。
考えてみると、俺の家族色々と最悪だな……。
転生って普通は恵まれた家族の元に生まれるものじゃないのか?
俺の転生先を決めた女神はどうなってるんだよ。
「まあいいや。ところで、君に提案があるんだ」
「俺に提案? あ~……マルチ勧誘とかやめてくれよ?」
よくよく考えてみたら、知らない人に何も考えずついて行っちゃっているんだよな。
もしかしなくても変な勧誘を受けてしまう可能性はある。
「ま、まるち? よく分かんないけど、怪しいことじゃないよ。でもでも、勧誘なのは間違いない」
言いながら、アンナは微笑を浮かべる。
「私のパーティに参加してみない? ちょうど仲間を探しててさ。君みたいな特殊な人間が欲しかったんだよ」
「……いいの? 俺家族から縁を切られたばかりの無能だけど?」
「いいのいいの! 私の見立てでは、君は案外才能があるかもしれないから。王都に着いたら仲間にも紹介させてよ」
「うーん……でも」
「なに? 交渉条件ならある程度なら考えてあげる」
マジか。俺なんかをスカウトするために交渉をしてあげるだなんて。
俺のことを勘違いしていないか?
確かに俺は魔法を記憶して無詠唱で発動することができるけど……今の俺には正直強い魔法なんて持ち合わせていない。
……待てよ。しかし交渉に乗ってくれると言うのなら、少し俺も話をしてみてもいいかもしれない。
「魔導書が読みたい、かな」
「いいよ。いくらでも与えてあげる」
「強力なやつでも?」
「もちろん。でもどうして?」
アンナが首を傾げて聞いてくる。
そうか、まだ彼女に俺のスキルがどんなものか教えていなかったな。
「俺のスキルは見た魔法を記憶して、無詠唱で発動できるってもの。だからもし強い魔法が載っている魔導書が読めたら……ってな」
「……それ本当?」
「うん。ごめん、もしかして弱すぎて驚いちゃった?」
「……分かった。いくらでも君に投資してあげる。だから絶対にパーティに入ってね!」
「え、ええ」
そう言って、彼女がぐっと顔を寄せてくる。
ええと……俺何か変なことでも言っちゃったかな?