45.浮遊魔法
「しかしこんな高さから降りる方法なんてあるのか?」
「あります! まあわたしの手を握ってください!」
「手……手を握るのか!?」
「そうです! 握るのです!」
そう言って、俺に向かって手を差し出してきた。
待て待て。待ってくれ。
俺は生憎と女性と手を握ったことがない。
なんてったって前世は陰キャを極めた真の陰キャだったのだ。
そんな人間が女性と手を握るだなんて!
「いいからいいから! 慣れたものでしょ!」
「……頑張る」
俺は気合いでエイラの手を握る。
……温かい。
誰かの手を握るだなんて、何年ぶりだろうか。
「たまにはいいですよね! こうやって手を握るのも!」
「そうだね! こういうのもたまには!」
「ああ。そうだな――って!?」
俺がそんなことを言おうとした刹那、エイラがぎゅっと引っ張ってきた。
「あ、ああ!? うおおおお!?」
結果として、崖下に身を乗り出してしまった。
もちろん二人もである。
三人が一斉に崖下へ飛び降りたのだ。
「やばいやばいやばい! 死ぬ!」
もう一度死ぬなんて勘弁だ。
俺は泣きそうな声で叫ぶが……。
「風の精霊よ、我々に浮遊の加護を――《フローティング》」
「ほらリッター! 浮いてるよ!」
恐る恐る目を開くと、俺の体は確かに浮かんでいた。
「これが浮遊魔法です! 作戦はあるって言ったじゃないですか!」
「お、おおお! すげえ!?」
エイラは俺の手を引いて、見えない階段を降りるかのように下へと進んでいく。
こんな魔法が存在しただなんて知らなかった。
やっぱり俺は未熟だな。
まだまだ知らないことが山ほどある。
「空中散歩も楽しいものだな! おおっと!」
二人がジャンプをしたので、俺も倣って跳ねる。
ふわふわと体が落下していき、最下層の地面に足が付いた。
すごい魔法だった。
今度は町の中とかで使ってみてほしい。
俺は半ば感動しているとアンナがふむと頷く。
「そろそろ洞窟も終わりなはずなんだけど……」
「待ってください。奥に何か気配がします」
エイラが杖を構え、戦闘態勢に入る。
どうやら何かを感じ取ったらしい。
「気配……また敵か?」
「恐らくは。ただ先程までの敵とはまた気配が違います」
「強敵ってわけね。多分ルビーちゃんが言ってたやつでしょうね」
てことは俺たちが色々と確かめてやらないとな。
魔人族関連だったら問題だ。
「よーし。やってやるか」
「その意気よ。これは私たちの仕事だからね」
「やーったりましょう! テンション上げていきますよ!」
俺たちはぐっと拳を握り、奥の方へと進んでいった。




