４４．崖下へ
「ゴブリン程度なら問題ないわ！ 私たちに任せて！」
「任せてください！ こう見えて攻撃魔法だって扱えるところを見せてあげます！」
そう言って、二人が俺の一歩前に出る。
こう言ってくれているのだし、ここは一度二人に任せよう。
もちろん俺も戦闘準備はしておく。
「ゴブリンたち！ 少し痛いわよ！」
アンナが剣を構え――そして一閃。
素早い速度でゴブリンたちを切り伏せていく。
「わたしも負けていられません！ 炎の精霊よ、眼前の敵を焼き払え――《ファイア》！」
エイラが杖をくるりと回すと、赤色の魔法陣が現れゴブリンを焼き払った。
俺も《ファイア》を扱うことができるが、詠唱ありのものは初めて見た。
普通はあのように扱うものなのか。
「やっぱ俺もやってやる！ 《イカズチ》！」
二人の間を縫って飛び出し、俺は目の前に手のひらを掲げる。
刹那――まばゆい光が雷鳴とともに降り注いだ。
残った残党を逃がすことなく、完全に仕留める。
ふう……やっぱ戦闘は緊張するけど達成した時は気持ちが良いな。
「やっぱりリッター様はすごいですね！ でもでも……私の《ファイア》見ましたか！ あれが普通の魔法です！」
「見たよ。でも詠唱ってのは格好がいいな……俺もあえて詠唱を……」
「絶対ダメです！ 無詠唱が一番なのですから！」
「そ、そうか……」
俺は少し肩をすくめる。
しかし詠唱をして魔法を発動するのも悪くない。
エイラはそう言っているが、どこかで習ってみてもいいかもしれないな。
「えーと。まあさすがにゴブリンからじゃミスリルはドロップしないか」
アンナはゴブリンが倒れた辺りをあさって、小さくため息を吐いた。
もちろんここでミスリルがドロップしてくれたら楽だったのだが、さすがにないよな。
「ここでドロップしたとしても、洞窟の奥には行くけどね。厄介な魔物ってのが気になるし」
「そうだな。魔人族との関係も否定できないわけだし、引き続き探索するか」
「ですね！ ささ早く行きましょう！ 厄介な敵は全てリッター様が倒してくれるのですから！」
「俺にあまり期待するなって！ 緊張しちまうだろ！」
でも、期待してくれるってのは嬉しい。
今まで経験したことないものだし。
アンナたちが先に進むのを確認した後、俺も後ろを付いていく。
相変わらずなんだか嫌な予感がするが、ともあれどうにかなるだろう。
しばらく進んでいると、崖のような場所に出てきた。
下の方を眺めていると、水の流れる音がうっすらと聞こえてきた。
「崖の下に降りるしかなさそうね……エイラ、頼める？」
「もちろん！ ここはわたしの魔法にお任せを！」
ほほう。どうやらこの崖から降りる作戦が、エイラたちにはあるようだ。
