43.足音
「ベガ山脈ねぇ……一応王都内にはあるんだな」
「まあね。王都自体かなり広いし、意外となんでもあるんだよ」
俺たちはベガ山脈近くまで来ていた。
森の中は薄暗く、決して雰囲気はよくない。
少し顔を上げると、木々の隙間から大きな山々がちらりと見える。
あれがベガ山脈の一部だろう。
「でも危なそうな気配がぷんぷんしますね……」
「そりゃそうだよ。この辺りは危ないって有名で誰も好き好んで近づく人なんていないから」
「マジですか!? 知らなかったです!?」
「エイラも知らなかったんだな。しかし……そんな場所ってなると体が震えるぜ……」
武者震いではなく、純粋に怖い。
しかしながら依頼を引き受けてしまったからには仕方がない。
それにもう現地まで来ているわけだし。
「で、ミスリルなんてどうやってゲットするんだ? 俺ら鉱物を発掘する技術なんて持ち合わせていないぞ」
「もちろん私も。私たちの場合はそういう技術がないから基本的に魔物からのドロップ品を狙うことになるわね」
「ってことは……戦闘は絶対避けられないわけか。ひえ~怖い」
俺は嘆息しながら歩く。
「リッターなら平気よ。なんたってリッターだからね!」
「リッターをなんだと思っているんだ……」
なんて会話をしていると、山への入り口が見えてきた。
俺たちは魔物がいないか確認した後、山へと入っていく。
相変わらず森と似たような感じで、薄暗い。
少し油断すれば怪我でもしてしまいそうだ。
「そろそろな……はずなんだけど……あ、あった」
アンナが何かを見つけたようで、早足で駆けていく。
こんな危なっかしいところをあの速度で走れるなんてすげえな。
俺なんてガクブルだってのに。
「洞窟か……確かに鉱物がありそうだ」
「中は更に暗そうですね」
「ここはエイラの魔法でどうにかしてもらうわ。頼める?」
「もちろんです!」
そう言って、エイラがふうと息を吐く。
「精霊よ、暗がりに光を灯せ――《ライト》」
瞬間、魔法陣からふわふわとした光り輝く球体が出てきた。
球体は浮きながら、周囲を照らしてくれる。
「うおおすげえ……こんな魔法あるんだな」
「便利ですよね! これ、頑張って覚えたんですよ!」
俺は半ば感動しながら、光に照らされた洞窟内を見渡す。
「さっさと向かうか。怖いことは素早く済ませてしまおう」
「そうね――って待って。何か近づいてきていない?」
「何か……足音がするような……」
俺は耳を澄まし、音を探る。
確かに何かがこちらに向かってきているような気がする。
「なんだ――うお!?」
洞窟の奥から、大量のゴブリンがこちらに向かってきていた。
「ヤバ!? 光に多分反応したんだと思う!」
「マジかよ!? やるっきゃねえな!」
俺たちは慌てて戦闘態勢に入った。




