38.仲間っていいな
「うぐ……ふらふらする……」
「大丈夫リッター? のぼせちゃった?」
「少し休みます? これでも飲んでください。牛乳です!」
「あ、ありがとう……」
温泉から上がった俺たちは、館内に設置されている椅子に座って一休みしていた。
しかし……本当にのぼせてしまった。
二人の声が聞こえてから、ずっと俺は湯の中に浸かっていたからな。
何も考えず煩悩に支配されず、虚無になろうとしていたのだが……それがダメだったらしい。
「ぷはぁ……牛乳うめえ……! やっぱこの世界でも牛乳は美味いなぁ」
温泉から上がった後に飲む牛乳の美味さは異世界共通らしい。
しかし日本と似た文化があるなんて、この世界も案外悪くないな。
「世界って面白いことを言うわね。なんだか別の世界から来たような言い方をするじゃない」
「あ、いやなんだ。比喩表現みたいなものだよ」
「なんですかそれ。小説家かなにかです?」
「そんな大層なものじゃないけどな」
正直に異世界から転生してきました……だなんて言えないよな。
それに、多分こういうのは言わないほうがいい。
俺は牛乳を一気に飲んでから、ふうと息を吐く。
「いいもんだなぁ……なんだか本当に仲間ができたみたいだ」
前世の俺にはなかった時間である。
人と付き合っていた学生時代を思い出してみても、相変わらず孤独だった。
話しかけられたかと思ったら、何かの罰ゲームだったりしたし。
今考えてみると、俺の前世悲しすぎるだろ。
「仲間だよ?」
「仲間ですよリッター様! どうしたのですか! やっぱりのぼせちゃってますね……」
「ははは……今は仲間がいるもんな。ごめんごめん、やっぱりのぼせちゃってるのかも」
今の俺は違う。
前世とは打って変わって、幸せな毎日を送っている。
なんだか信じられないことだけどな。
「さーて! ご飯とかどうする? 何か美味しいもの食べようよ!」
「わたしお肉が食べたいです! 美味しいお肉!」
二人が立ち上がって、わいわい騒ぎ始めた。
俺は少し嬉しくなりながら二人を眺めた後、よっこらせと立ち上がる。
「俺も肉が食いたいな。久々にがっつり行きたい気分だ」
「お肉かぁ……それじゃあステーキとかどう? めちゃくちゃがっつりじゃない?」
「いいですねステーキ! わたしも大賛成です!」
「いいじゃねえか! んじゃ俺もステーキで!」
「決まりね! それじゃあ早速店選びでもしましょ!」
「いえーい!」
全く、俺は幸せものだぜ。
二人が駆けだしたのを眺めた後、俺は息を吐いて背中を追いかけ始めた。




