37.温泉
「それじゃあ私たちはここでお別れね」
中に入った俺たちは料金を支払い、後はもう準備をするだけとなった。
そんな中アンナはにやりと笑って俺のことを見てくる。
「一緒に入れなくて寂しい?」
「さ、寂しくない。なんで急にからかうようなことを言うんだよ!」
「可愛いからかな」
「ふふふ……確かに可愛いですよね。一緒にお風呂入れなくて残念ですか~?」
「エイラまで……! 別に残念じゃない! やめてくれ!」
そう言うと、二人は満足そうに笑う。
全く……からかうのは勘弁してほしい。
恥ずかしいじゃないか。
「それじゃあね。温泉楽しんで」
「ばいばーいです!」
「ああ。そっちもな」
適当に言った後、俺はのれんをくぐった。
◆
温泉っていうのは、本当に心が安らぐものだ。
湯に浸かっている時だけは、全てを許してしまうって言うか……。
「だけど……違うんだよなぁ……」
俺は温泉の中で大きく息を吐く。
もう心臓はバクバクで安らぐなんて段階ではなかった。
「どうして……どうしてアンナたちの声がこんなにも聞こえるんだよ」
実際問題。
現状、アンナたちの声が男湯なのにめちゃくちゃ響いてきていた。
もちろんアンナたちが入っている女湯は隣である。
ちょっとした壁を乗り越えたらそこはもう女湯だ。
だけどだ。
実際距離はだいぶ離れている。
そりゃちょっと声を出したらどちらにも筒抜け……だなんて設計はしないだろう。
「女湯私たちしかいないね!」
「貸し切りです! テンション上がっちゃいますね!」
どうやら貸し切り状態らしく、それでテンションが上がっているようだった。
だが……男湯も貸し切り状態である。
だからそれ自体は問題ないのだが……。
「なんか……あれだよな……ダメだよな……」
なんだか声を聞いているだけでも、ダメなことをしているようで心が持たない。
俺は大きく息を吐く。
「ははは! 体洗ってあげるよ!」
「いいんですか! それじゃあわたしも洗ってあげます!」
「……二人は一体なにをしているんだ」
体の洗いっこを始めたらしい。
ダメダメダメ!
俺は一体どうして耳を傾けているんだ!
慌てて耳を塞ぐ。
だけど……耳を塞いでも普通に聞こえてくる。
俺は諦めて、温泉の壁に背中を預けた。
「可愛い! こちょこちょこちょこちょ!」
「きゃ! やめてくださいよ! 恥ずかしいじゃないですか!」
俺の方が恥ずかしい。
二人は一体何をしているんだ……。
俺は顔が赤くなるのを感じながら、息を吐いたあと湯の中に顔を埋めた。




