27.アグ
「せっかくキメラを用意してやったのに、まさか討伐されるなんてな。残念だ」
男は嘆息しながら頭を掻く。
己が持つ角に触れ、俺たちの方を見てきた。
「アンナ……あいつ知ってるか?」
「……魔人族よ」
魔人族だって?
つまり俺たちの敵ってことか。
俺はふうと息を吐いて、魔法を放つ準備をする。
いつだって戦える。
「まあ待て。別に今回は戦いに来たわけじゃない。挨拶だ」
そう言いながら、魔人族はにやりと笑う。
「オレはアグ。お前たちの想像通り魔人族だ」
アグと名乗った男は近くにあった木に背中を預けた。
ケラケラと笑いながら、俺たちを見る。
「で、あなたの目的はなんなの。どうして人間に攻撃をするの」
「目的だぁ? そんなの決まってるだろ。復讐だよ」
「復讐……? 一体どうして?」
アンナが尋ねると、男は答える。
「復讐に意味なんかねえよ。ただ、殺したいんだ。人間をぶっ殺して、魔人族は更に上を目指す。まあまずはお前ら王国を滅ぼすことだ」
「なんだよそれ……最悪じゃねえか」
「最悪だぁ? 最高と言えよ」
こいつは何を言っているんだ。
俺には……到底理解できない。
復讐がなんだかは知らない。
人間が何をしたのかなんて知らない。
だからといって、無実の人間を殺そうとするなんて決して許されないことだ。
「ま、そういうことだ。末永くよろしくな。人間さんよ」
「リッター。攻撃して」
「もちろんだ。《ブリザド》」
俺は隙を一切見せることなく、魔法を相手にぶち込む。
被害がこれ以上出る前に仕留めなければ。
「おっと。残念でした。それじゃあな」
しかし、俺の魔法は当たることなくアグをすり抜けた。
そして彼は静かに、闇の中に消えた。
一体どういう原理かは分からないが、どうやら逃げられてしまったらしい。
俺は嘆息しながら、アンナに声をかける。
「逃げられたな」
「仕方ないわ。とりあえず、名前を知れただけ良いとしましょう」
「そうですね。ひとまず依頼は達成ですから、いったん喜びましょう!」
「そうだな」
俺は頷き、拳を突き上げる。
色々あったが依頼は達成だ。
キメラとかいう厄介な魔物を見たときはどうなるかと思ったが、討伐はできた。
ひとまずこれを喜ぶべきだ。
「やっぱりリッター様の実力はいつ見ても痺れますね。ね、アンナさん!」
「そうね。リッターを見ているとゾクゾクしちゃう」
「ゾクゾクってなに!? なんか怖いんだけど!?」
ゾクゾクの意味が分からず、俺は俺でゾワゾワしてしまう。
なんか危機感を覚えてしまうんだけど。
「いったん帰って報告しましょ!」
「帰還~!」
「そうだな。帰還だ」
俺たちは大きく息を吐いてから、レッドル公爵領へと歩き出した。




