25.透明
「まさかリッター様にお会いすることができるとは……光栄です」
「ははは……俺は別に」
レッドル公爵の兵士に案内してもらいながら、俺たちは歩いていた。
というか……なんか兵士にも感激されているのだが。
俺、何かしたかな?
別に目立つようなことは何もしていないと思うんだけど。
「やっぱりリッターは有名だね。私たちも負けてられないな」
「ですです! 負けてばかりじゃいられません!」
「いやいや……二人まで……」
これじゃあまるで俺が有名人みたいじゃないか。
まあ……俺の持っているスキルは外れだから、ある意味有名になりえる素質は持っているのかもしれないけど。
「話が変わってしまい恐縮なのですが、キメラが確認された場所はこの辺りです」
兵士が立ち止まり、遠くの方を指さす。
この辺りは木々はあまり生えておらず、広い草原が広がっていた。
「申し訳ないのですが、私は危険なため一度帰還します!」
「ありがとうございました! ここは俺たちに任せてください!」
「ええ! 私たちに任せてちょうだい!」
「です!」
そう言うと、兵士は一度敬礼をしてその場から去っていった。
やはり戦闘をするってなると、兵士たちがいたら危ないからな。
俺はふうと息を吐いたあと、周囲を見渡す。
「しかしこんなに視界は確保されてるのに、どこにもキメラは見当たらないな」
キメラがどんな生物なのか、どんな大きさなのかは知らない。
だから正直なんともなのだが、それでも見当たらないことに疑問を抱いていた。
「うん。キメラって色々な魔物の特徴を持っているから、何か変な能力でも使ってるのかも」
「変な能力……? それがキメラが見当たらない原因なのか?」
「分からないけどね。もしかしたら、もう移動しちゃってここにはいないのかもしれないし」
俺たちは半ば困りながら、周囲を見渡す。
しかし現れてくれない以上は俺も何もできない。
どこか探しに動いてみるか……と思ったのだが。
――ザザッ!!
「なんだ!?」
「……!? みんな戦闘準備を!」
「は、はい!!」
正面の草が激しく揺れたかと思うと、透明な何かが俺たちの隣を横切った。
俺たちは武器を構え、見えない相手が何者なのかをじっと見ていた。
「あれは……」
「キメラね。透明化の能力も持っているっぽいわ」
うなり声が聞こえたかと思うと、ゆっくりとキメラの姿が現れた。
様々な魔物の特徴を持った体をこちらに向け、睨めつけてきている。




