21.馬鹿なんじゃない?
「まさかギルドが馬車代まで負担してくれるなんてな」
「そうね。それほど危機感を持っているっぽい」
俺たちは馬車に乗りながら、レッドル公爵領を目指していた。
小窓から顔を出して、微かに当たる風が気持ちいい。
「それにしても公爵ですかぁ。どんな人なんでしょうね」
エイラが肩を揺らしながら聞いてくる。
確かに公爵ってのはどんな人間なのだろうか。
俺は一応、嫌というほど伯爵に関してはみてきたが……まああんな感じだった。
だからあまり、貴族という身分にいい印象は持っていない。
「すごく領民思いのいい人らしいわよ。世間からの評判はとてもいいらしいわ」
「へぇ~それはすごいな」
アルタール伯爵の世間の評判は……あんまりだった。
あの人は自分中心なところがあるから、それが原因だとは思うけど。
ん~……貴族にもいい人ってのがいるんだな。
意外だ。
「まあそういう感じだから、会って変なことを言われるってのはないと思う。貴族ってプライドが高い人が多いからそういうイメージがあるけどね」
「ああ。貴族はプライドが高い」
「あれ? なんだか確信めいた言い方をするわね」
それもそうか。
俺はあまり確信を持った言い方なんてしないからな。
少し不思議に思われても当然である。
「実は俺の家族が貴族でさ。ほら、アルタール伯爵って知ってる?」
「え!? あなたって元貴族なの!?」
「マジですか!?」
「あんまり自慢できることじゃないんだけどね。実際無能の烙印を押されて追放されたし」
そう言うと、二人は目を丸くする。
「リッターを追放するだなんて、その貴族は……言っちゃ悪いけど勘違いをしているか、ただの馬鹿ね」
「そうです! ありえません!」
「ははは……でも実際俺は外れだしな」
「信じられない。やっぱり馬鹿なのよ」
「世間からの評判も見え透いてますね……」
そこまで言ってくれるのか……。
なんか俺なんて外れスキル持ちで馬鹿だから、少しだけ嬉しい。
やっぱりこういう仲間がいるのって幸せなんだな。
「さて、そろそろな気がするんだけど――うわっ!」
「な、急に止まりましたね!?」
馬車が急停車したので、慌ててアンナが確認を取ろうとする。
顔を出して、外の様子を窺っていたのだが。
「どうやら魔物に襲われたっぽい。今すぐ退治しなきゃ」
「マジか。よし、俺たちの出番だな」
「やったりましょう!」
そう言って、俺たちは馬車の外に飛び出した。
魔物との戦闘はやっぱり緊張するが、俺たちなら大丈夫だ。




