18.知らないだけ幸せなこともある(イダト視点)
「何がリッターの方が素晴らしいだ! 僕の方が才能に恵まれ、幾倍も強いって言うのに!」
イダトは苛立ちを隠せないまま、廊下を歩いていた。
リッターを追放して以降、召使いからの視線は痛いものである。
まるで自分はゴミを見るような目で見てくる。
自分が何をしたっていうんだ。
全部正しいことをしたまでだって言うのに。
「僕がもっとも素晴らしいことを分からせないといけないな。一度大きな成果を上げてみせるか」
イダトは良いことを思いついたかのように、にやりと笑う。
自分が大きな成果を残せば、他の人間たちも納得がするだろう。
まずは適当に魔物を倒してみせるか。
しかしどんな魔物がいいだろうか。
もっとも成果が分かりやすいものがいいな。
「そうだ! ドラゴン討伐にチャレンジしてみるか!」
イダトはぽんと手を叩き、急いで剣を取りに行く。
奇しくも、彼はドラゴン退治を選んでしまった。
それは既に、リッターが無自覚のうちに既に乗り越えている道だというのに。
イダトは決めてから行動に移すのは早いタイプだ。
それだけは褒められてもいい部分ではある。
だが彼はいつも成し遂げる前に、さも既に成し遂げたかのように語る癖がある。
特に自分を小馬鹿にしてきた人間には腹が立っていつも虚言を吐いてしまう。
「ははは! そこの召使い! 僕はドラゴンを倒す男だ! 僕に恨みがあるようだが、今に見ていろよ! 何も言えなくしてやるからな!」
そう召使いに吐くが、召使いは嘆息した。
なんせ、既にリッターがドラゴンを倒してしまったという噂は召使いの耳に届いていたからだ。
それもそうだろう。
リッターは何も気にしてはいなかったが、あの日リッターが倒したドラゴンはアルタール領にて突如発生し、緊急依頼としてギルドから討伐が各地に依頼されていた魔物だったのだから。
だからあの日、Sランク冒険者であるアンナはそこにいた。
ドラゴンの討伐をするため、アルタール領に出向いていたのだ。
「ははははは! 僕が世界一だ!」
イダトは《剣聖》を持っているが、一切努力はしようとしない。
だから召使いは彼がドラゴンを倒すことなどできないと考えている。
彼は恵まれた才能を持っているが、それ以上にリッターが優秀すぎたのだ。
しかし、イダトはその事実にまだ気がつかない。
自分たちが破滅の道へと進んでいることを、イダトもアルタール伯爵も未だに知らない。
だがすぐに思い知らされることになる。
これから起こる、悲劇とも言える過程を経て彼らはどん底にまで落ちぶれてしまう。
「待ってろよドラゴンっ!」
……まあ、知らないだけ彼らにとっては幸せなのかもしれない。
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