17.紋章
「こちらです。この宝石のようなものがオーガから回収されました」
そう言って、受付嬢さんは宝石のようなものを見せてくれる。
パッと見は本当に宝石なのだが、何か紋章のようなのが刻まれているようだ。
「この紋章……見覚えあるわ。確か魔族のものよね?」
「魔族? なんだそれ」
俺は首を傾げてしまう。
名前は聞いたことあるが、一体どんなものなのかは知らなかったからだ。
「魔族にも色々あるんだけどね。人間に近いけど、また違った存在だと思ってくれていいと思う」
「人間に近しいか……でもそれがどうしたんだ? 魔族が何か問題でもあるのか?」
そう言うと、受付嬢さんは答える。
「基本的に問題ありません。友好的な魔族も多くいらっしゃいますから」
「なら」
「ただ、友好的な種族ばかりじゃないのです。この宝石に刻まれている紋章は恐らく魔人族のもの。彼らは人間に酷く敵意を抱いているようでして……」
魔人族……聞いたことがないものだが、名前からしてまがまがしさを感じる。
エイラがむむむと唸りながら、
「あのオーガは魔人族が仕掛けてきたもの……って考えるのが妥当ですね。最近は魔人族からの攻撃は収まっていたのにどうして……」
「ええと、つまり魔人族ってやつらは敵なのか?」
俺がアンナに聞くと、彼女はこくりと頷く。
「攻撃してきた以上は敵ね。実際被害も出たんだし、戦闘は避けられないわ」
なるほどな……つまり人類の敵ってことになるのか。
この世界は魔物がいたり魔族がいたりと、元の世界と違って大変だな。
「つきましては、アンナさんたちに魔人族の警戒に当たってほしいのです。お願いできますか?」
「ええ、もちろん。リッターも構わないよね?」
「俺でよければ。二人にはお世話になってるから、いくらでも頑張るよ」
「さっすが。ありがとうね」
俺が役に立つかどうかは分からないが、彼女たちのために頑張りたいと思う。
とはいえ、こういうのは俺よりイダトの方が適任なような気がするけど。
俺なんて所詮外れスキル持ちだしな。
《剣聖》にはどんなにやっても勝てない。
「とりあえず報告でした! ギルドの方でも調査はいたしますので、アンナさんたちは今日のところは休んでください!」
「そうですね! 今日は少し休みましょうか!」
「俺もちょっと疲れたかも。いいかなアンナ?」
「そうね。ちょっと休もうかしら」
ということで、俺たちはいったん休息を取ることにした。
が……ふと思い出す。
俺、どこで休めばいいんだろ。
家がないのはもちろん、宿に泊まるお金だって持ち合わせていない。
もしかして、野宿か?
なんて考えていたのだが、アンナが俺に話しかけてくる。
「あ、リッターって泊まる場所ある?」
「ないよ。だからちょっと今困ってるんだ」
「それじゃあ一緒に来なよ。仲間なんだから一緒に寝よ」
「本当か! ありがとう――」
え、ちょっと待って。
今『一緒に寝よう』って言わなかったか?




