103.猛犬
突如として放たれた血液の棘が、俺の肩を抉る。
咄嗟に避けようとしたが……少し間に合わなかった。
俺は肩に手を当て、《治癒》を発動する。
「……危なかった」
当たり所が悪かったら……多分即死だった。
俺は半ば安堵しながら、治療が完了した肩をさする。
「くっそ……オレもオレで賭けだったんだが……肩を抉っただけか。しかも治されちまったしよぉ」
アグは頭を掻いて、大きく息を吐いた。
面倒くさそうに笑いながら、俺を睨めつけてくる。
「負けだ負け。そもそもオレはあまり戦うのが得意じゃないんだ。たっく、最期がこれじゃあ格好が付かないな」
「あなたは絶対に死なせないわ。絶対に」
「そうです……!」
アンナたちがこちらに駆け寄ってきて、倒れたままのアグに声をかける。
「あなたは罪を償う必要があるわ」
そう……彼は罪を償う必要がある。
王都を襲撃したこと、市民の平和を奪ったこと。
過去の復讐だかなんだか知らないが、決してしてはならないことなのだ。
「そうだアグ。今から俺が傷を治してやる。だから一緒に来てくれ」
俺は《治癒》を発動するためにアグに近づく。
一度彼を治療して、それからのことを考えなければならない。
「オレを助けるのか? 良い趣味してんねぇ……」
「……やるべきことをやろうとしているだけだ」
そう言うと、アグは鼻で笑う。
「なんだかなぁ……お前を見ていると思い出す……お前が使う魔法を見ていると蘇ってくるよ」
思い出す……何がだろうと俺は首を傾げる。
「賢者だよ。昔いた賢者……そいつにお前は似ているよ」
賢者……よく分からないが、恐らく数百年前の話だろう。
似ているか。まあ、俺にはあまり関係ないことかもしれないけれど。
「しかし……悪いなぁ。傷を治して貰っちゃって」
「別にお前のためにやっているわけじゃない」
「そんなこと言うなって。オレは嬉しいんだぜぇ……?」
だけど、と言ってアグは俺を見る。
「それは無意味だばーか! オレがお前らと一緒に行くわけないだろ! 想定済みだっての!」
「は……?」
アグは目をかっぴらいて、思い切り叫ぶ。
そしてゲラゲラと笑いながら、空に手を伸ばした。
「お前の番だぜ猛犬がぁ! 最低限作戦はしっかり果たして貰うぞッッ!?」
「何を言って――」
その刹那、目映い光とともにアグに向かって何かが落ちてきた。
いや――剣だ。
剣が尋常じゃない速度でアグを貫いた。
轟音が響き、同時に何者かが遅れて地面に着地した。
アグを貫いた剣を握り、一人の男が言葉を吐き捨てる。
「『万が一オレが負けたら殺せ』って言われていたんだ。まあ、負けてくれて嬉しいよ」
「……お前!!」
目の前に現れた男――イダトは俺を見る。
「勝っちゃったら、僕が復讐できなくなるからね。会いたかったぞ……リッター!」
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