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【書籍化】外れスキル《ショートカットコマンド》で異世界最強〜実家を追放されたけど、俺だけスキルの真価を理解しているので新天地で成り上がる〜  作者: 夜分長文
第一部七章

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103.猛犬

 突如として放たれた血液の棘が、俺の肩を抉る。


 咄嗟に避けようとしたが……少し間に合わなかった。


 俺は肩に手を当て、《治癒》を発動する。


「……危なかった」


 当たり所が悪かったら……多分即死だった。


 俺は半ば安堵しながら、治療が完了した肩をさする。


「くっそ……オレもオレで賭けだったんだが……肩を抉っただけか。しかも治されちまったしよぉ」


 アグは頭を掻いて、大きく息を吐いた。


 面倒くさそうに笑いながら、俺を睨めつけてくる。


「負けだ負け。そもそもオレはあまり戦うのが得意じゃないんだ。たっく、最期がこれじゃあ格好が付かないな」


「あなたは絶対に死なせないわ。絶対に」


「そうです……!」


 アンナたちがこちらに駆け寄ってきて、倒れたままのアグに声をかける。


「あなたは罪を償う必要があるわ」


 そう……彼は罪を償う必要がある。


 王都を襲撃したこと、市民の平和を奪ったこと。


 過去の復讐だかなんだか知らないが、決してしてはならないことなのだ。


「そうだアグ。今から俺が傷を治してやる。だから一緒に来てくれ」


 俺は《治癒》を発動するためにアグに近づく。


 一度彼を治療して、それからのことを考えなければならない。


「オレを助けるのか? 良い趣味してんねぇ……」


「……やるべきことをやろうとしているだけだ」


 そう言うと、アグは鼻で笑う。


「なんだかなぁ……お前を見ていると思い出す……お前が使う魔法を見ていると蘇ってくるよ」


 思い出す……何がだろうと俺は首を傾げる。


「賢者だよ。昔いた賢者……そいつにお前は似ているよ」


 賢者……よく分からないが、恐らく数百年前の話だろう。


 似ているか。まあ、俺にはあまり関係ないことかもしれないけれど。


「しかし……悪いなぁ。傷を治して貰っちゃって」


「別にお前のためにやっているわけじゃない」


「そんなこと言うなって。オレは嬉しいんだぜぇ……?」


 だけど、と言ってアグは俺を見る。


「それは無意味だばーか! オレがお前らと一緒に行くわけないだろ! 想定済みだっての!」


「は……?」


 アグは目をかっぴらいて、思い切り叫ぶ。


 そしてゲラゲラと笑いながら、空に手を伸ばした。


「お前の番だぜ猛犬がぁ! 最低限作戦はしっかり果たして貰うぞッッ!?」


「何を言って――」


 その刹那、目映い光とともにアグに向かって何かが落ちてきた。


 いや――剣だ。


 剣が尋常じゃない速度でアグを貫いた。


 轟音が響き、同時に何者かが遅れて地面に着地した。


 アグを貫いた剣を握り、一人の男が言葉を吐き捨てる。


「『万が一オレが負けたら殺せ』って言われていたんだ。まあ、負けてくれて嬉しいよ」


「……お前!!」


 目の前に現れた男――イダトは俺を見る。


「勝っちゃったら、僕が復讐できなくなるからね。会いたかったぞ……リッター!」




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