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交通事故

作者: 雉白書屋

 夜中、男はその十字路に近づくにつれ、バイクの速度を落とした。

 背中に嫌な汗をかいている。当然だ。

男はつい一週間前にその十字路で接触事故を起こしたのだ。

 相手は老婆のようだった。そう、『ようだった』

 ぶつかった後、すぐに後ろを振り返り、地面に倒れているのを目にしたが

男はバイクを止めるどころか速度を上げ、そのまま走り去ったのだ。

怪我の有無、生死。何も確認はしなかった。怖かったのだ。

 そしてその後も男は怯え続けた。今に警察が家まで来るのではないか。

昔ならいざ知らず、監視カメラが至る所にある今の世の中だ。逃げられるはずがない。

 向こうが飛び出してきたなんて言っても、きっと信じては貰えないだろう。

いずれにしろ前方不注意。非はこちらにある。

 思い返せば一瞬だが看板を見た気がする。


【交通事故に注意】


 前にもあの場所で事故が起きたのだろう。

と、なると警察も注意を向けているかもしれない。

防犯カメラが設置されているかもしれない。

もし、ないとしても現場近くのものを辿れば、いずれは……。


 そう考え、怯え続けた男はいてもたってもいられなくなり

またあの十字路に向かっていたのだ。

犯人は現場に戻るって本当だな。そう、自嘲気味に笑いつつ。


 ……ないな。


 事故現場にたどり着いた男はバイクを止め、辺りを見回したが

防犯カメラらしきものはなかった。その事にまず一安心し

そして次に献花の類がないことを確認すると大きく息を吐いた。

 

 あのお婆さん、もしかしたら大した怪我もなく

その足でそのまま家に帰ったのかもしれない。


 男はそう思うと久しぶりにふふっ、と声を出し笑うことができた。



 ……その時であった。自身の笑い声を裂くような声がしたのは。


「な、なんだ! このババアは!」


 その声の方に目を向けた直後、男は悟った。

 看板の意味。【交通事故に注意】とは運転手と歩行者の接触事故のことではない。

運転手の自損事故のことだ、と。そして、今回に至っては……。


 男に迫りくるトラックのフロントガラスには、あの老婆がピッタリと張り付いていた。

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