動画削除のアレやコレ ~出版社がなろう系レビュー動画を削除するのはスラップ訴訟のようなもの、という話~
まず本題に入る前に、「スラップ訴訟というのは何か?」という部分について話しておきましょうか。
知ってる方は飛ばしてください。
スラップ訴訟のスラップとは、「Strategic Lawsuit Against Public Participation(公的参加に対する戦略的訴訟)」というもので、この頭文字をまとめたSLAPPとSLAP(平手打ち)を掛けた造語です。
これは恫喝訴訟とも言われるやり方で、簡単に説明すると「組織や団体、強い権力を持つ者が、異議を申し立てた一般人を訴訟等の手段で無理矢理黙らせる」といったものですね。
最近だと、怪しいNPO団体に関して住民監査請求をした一般人男性が名誉毀損等の理由で訴えられる事案がありましたが、これなどは見事にスラップ訴訟です。
裁判は個人だと金銭的にも精神的にも多大な負担になりますから、こういったことをやられると大抵の一般人の場合、たとえ正当性が自分にあっても折れざるを得なくなったりするんですね。
まぁこの例の一般人男性はただの一般人男性ではなかったんですがw
この騒動を知らない方は、colabo問題・WBPC問題でチェックチェック。
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で、本題になりますが……
YouTubeのなろう系レビュー動画は、権利者の申請で削除されることがソコソコあります。
あまり物を知らないなろう信者サンなんかはこれを「著作権に触れているんだから当然だ」と言ったりしていますが、実はこれは間違いです。
YouTube内では日々膨大な申請が飛び交っているため、ほとんどの判断をAIに丸投げしてる状態なんですね。
なので、まったく無関係な申請でも動画は簡単に削除されることがありますし、ただのミスで削除されることもあります。
実際、先述した一般人男性はYouTube内で自身のチャンネルを運営されてるんですが、「のり〇えネット」という怪しいフェミ団体による虚偽の申請で不当に動画を削除されていました。
ですが、削除申請を受けた側が無条件で泣き寝入りしないといけないかと言うと、そうではありません。
削除申請に異議がある場合、投稿主は異議を申し立てることが出来ます。
これを行うと、ボールは申請者側に移るんですね。
申し立てが行われると、申請者は二週間程の営業日の間に法的手続きに移行しないといけなくなります。
そして、申請者が期日の間に法的手続きを取らなかった場合、削除された動画は自動的に復活することになる、と。
これが動画削除の一連の流れになります。
まぁ権利者は自分が権利者だと証明する情報をYouTubeに送らなければいけないので、誰にでも出来るというわけではないんですが、逆に言えば企業情報さえ持っていれば個人が企業の名前を騙って削除申請を出すことも出来たり。
「双葉・社【ふたば やしろ】事件」とか、一部界隈では有名な話ですねーw
だけど、なろう系レビューの投稿主に限らず、ほとんどの投稿主は明らかな虚偽やミスによる申請以外で申し立てを行うことはありません。
そしてそれは恐らくですが、自分に非があると思っているからではない場合がほとんどだと思います。
申し立てを行わない理由。
それは最初に書いた話に関係する、訴訟費用やその労力の問題でしょうね。
一本の動画で数十万円といった金を稼ぐような投稿主はまずいません。
なろう系レビューの投稿主だと、大抵は数百円~数千円ってところじゃないかと。
そんな動画を守るために軽く数十万円以上は必要な裁判を覚悟して企業とやり合うなんて、たとえ勝てる見込みが高かったとしても不合理ですよね。
勝訴すれば損害賠償請求も出来るんですが、賠償額は【動画の収益に関係する金額 + 慰謝料】くらいしか請求出来ませんし。
となるともう「黙って従う」という判断になるのはある意味当然で、権利者側も「そう判断するだろう」と分かっているから削除申請を出しているんだと思いますよ。
恐らく、「これは自分達に正当性がない削除申請だ」と分かっていながら。
というわけで、ここから著作権法についてと、何故出版社の削除申請に正当性がないかについて少々。
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ネット等ではたまに、一ファン的な立場で「著作権ガー!」といったことを言っている人がいますが、これはこの時点で自分の無知をさらけ出している行為です。
というのも、著作権に関する問題は親告罪だからですね。
親告罪というのは要するに「当人間の問題」として起きる問題で、第三者が口出し出来る話ではないわけです。
問題にするもしないも、良し悪しも、当人同士で決める話なんですよ。
なので、権利者が「いいよ」とさえ言えば、それを利用してバリバリ荒稼ぎすることだって問題にはなりません。
このように、他人の著作物を利用するに当たっては、権利者の許諾を取るというのが基本ですね。
しかし、絶対に権利者の許諾がないと利用出来ないかと言うと、実はそうではありません。
著作権法には「引用」というルールもあり、レビュー動画等はこの「引用」のルールに基づいて作成されているんですね。
著作権法はかなり複雑なので、詳しくは各々で調べてもらったらと思うんですが、引用についてのルールをいくつか簡単に説明すると……
【引用元を明記すること】
歴史モノの漫画等でも歴史学者の著作物を引用した場合は出典元をそのページで明記したりしていますが、あれなんかがそうですね。
【引用した部分をハッキリさせ、使用するのはあくまで一部分のみに限定すること】
記事等だと引用部分を鉤括弧で囲んだりして、引用部分を明確にする必要があります。
また、「引用だから~」と著作物の全てを丸写ししたりするのはダメです。
【主と従の関係が逆転してはならないこと】
レビュー動画でたとえると、著作物の画像ばかりにしてはダメ、という感じですね。
レビュー動画においての主はその著作物に対する批評で、著作物の画像等は批評のための従の存在じゃないといけません。
と、他にも色々ルールはあるんですが、これらを守っていれば著作権法違反には当たらないわけです。
ただ、引用のルールの中には「一部」等の曖昧な解釈が出来てしまう部分もあるため、著作者が「それは一部とは言わんだろ」と納得いかなかった場合、最終的には法廷で決着をつけることになります。
それで被告敗訴となってしまったのが、一時期話題になった「ファスト映画」ですね。
あれも投稿主側としては「引用の範囲のレビュー動画」という理屈だったわけです。
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さて、以上を踏まえて改めて考えてみると、これまで削除されたなろう系レビュー動画の投稿主さん達は、本当に著作権を侵害していたのでしょうかね?
引用元をちゃんと明記しない人なんてまずいませんし、引用している画像は数ページ分程度。
それも無料公開されているものに限定したり、一コマをトリミングして使ったりと、かなり気を使ってる人も多いです。
批評がメイン(主)になってるんで、主従の逆転もありませんね。
ファスト映画とかについては、素人判断でも「そら問題あるやろ」と思うんですよ。
あれは引用と言いながらも、作品の序盤・中盤・終盤とあらかたストーリー解説して、果てはオチまで語ってましたから。
でも、なろう系レビュー等は物語の触りの部分だけの紹介で、オチなんて語ってません。
つか、大抵のなろう系はオチの部分が未来永劫やってこないものがほとんどですけどーw
だから、今の出版社がやっている酷評レビューだけを狙い撃ちしての削除は、実際は結構ヤバいことやってるんですよね。
著作権の侵害が理由なら評価の良し悪しは関係ないんですから、やってることは実質のところ「自社に都合の悪いレビューや感想を、著作権法を大義名分に削除している」ということになるわけです。
それはただの言論封殺ですし、自分達にとって都合の悪いレビューや感想を本来の意図から外れた法律を使って消すというのは、景品表示法に抵触する恐れもあります。
都合の悪い評価だけを消して都合の良い評価は残す、というのは「優良誤認を招く行為」なわけで。
自社の商品や著作物を不当に貶めるレビューや感想だというなら、そこは著作権法じゃなくて不正競争防止法で対処すべきですね。
とはいえ、よくある頭の悪いなろう展開を「こういった理由で頭が悪い」といくら酷評しても、それは事実陳列罪にしかなりませんけどw
ま、出版社の言い分としては……
「たまたま見つけたのが酷評レビューだったんですぅぅぅぅ!著作権侵害してるのを見つけたら、他のレビューも消すんだけどなぁぁぁぁ!残念だなぁぁぁぁ!」
ってトコじゃないですかね?w
結局のところ、著作権法は著作者の権利を、詰まるところ儲け(利益)を守るための法律なんで、本当に利益侵害している場合、企業等は容赦なく訴えてきます。
最近だとムービーが多いゲームのムービー部分だけを繋ぎ合わせた、ファスト映画ならぬファストゲームのようなものを投稿してた投稿主がガッツリやられてましたね。
確かにアレをやられると、「ストーリーもエンディングも分かったからゲーム買わなくていっか」みたいな人も出てくるでしょうし。
んじゃ、なんで今の出版社がレビュー動画の削除申請だけで実際に裁判沙汰にまで行かないかというと、「動画消すことが目的だから」としか考えられないでしょ。
実際問題、こんな話を裁判所に持っていっても、裁判官も困ると思いますよ。
なろう系漫画に限った話ではないですが、最近の漫画ってほとんどのものが序盤無料公開されてるんで、そこのごく一部を引用してたとしても裁判官からしたら……
「いや、おたく、自分で無料公開してますやん?その一部使われたからって、何の利益が損なわれるの?」
って話になりますから。
とどのつまり、出版社は……
「裁判する覚悟なんてないだろうから、脅せば消すやろ。歯向かってきたら徹底的に嫌がらせ裁判したるわw 企業ナメんなw」
みたいな感覚で削除申請出してるんじゃないですかね?
だとしたら、やってることはほぼスラップ訴訟(未遂)なんですよ。
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出版社の、編集者の仕事って、荒削りなものを商品として価値があるものにブラッシュアップすることだと思ってたんですが、今は言論封殺&統制に力を入れてるんですねー。
なろう系の編集なんて、原作の酷さも作画の酷さも、懐かしのムーディー勝山の如く右から左へ受け流す、って感じですもんねー。
つまり、俺が何を言いたいかというと……
それで給料貰えるんなら俺も雇ってくんねぇかなぁぁぁぁ!
頑張るからっ! 頑張って仕事しないからっ!
S英社の編集者みたいに海賊サイトで漫画読んだりしてるからっ!
お願いしますぅぅぅぅっ!!!
と、仕事の都合で最近早朝出勤が多くなってきたオヂサンは思っちゃうわけですよ。
よし、寝るか。
おわりー。
補足・双葉 社【ふたば やしろ】事件
とあるなろう系レビュアーさんの、とあるなろう作品についての動画が削除されたことがあったんですが、その件の削除申請者が「双葉 社【ふたば やしろ】」さんだったという話。
社会人経験がある方なら分かると思いますが、法的措置にまで発展する可能性があるような正式な申請では、登記上の正式名称を記載するのが普通です。
が、何故かこの申請は「株式会社双葉社」からではなく「双葉 社【ふたば やしろ】」さんからだったんですねー。
ちなみに、権利者削除で有名な方が削除申請画面のスクショを上げていましたが、そこではちゃんと「株式会社双葉社」になってましたとさ。
まぁその動画では引用元をなろうの原文にしていたので、株式会社双葉社が権利を主張するのはそれはそれで異常な話なんですけどね。
なろう内の作品について権利を主張出来るのは、作者とヒナプロジェクトくらいですから。
引用元を明記するというのは、「何か言う権利があるのはこの引用元の関係者だけですよ」と明示する意味もあります。