M四 不思議な感覚
「へ~、巧いんだなぁ…」
器用に縫う麻梨子を見て柊は素直に感想を言った。
「あ、ありがとう…家でもやるから、自然とね」
普段は人に見られてても緊張することはなかったが、柊に言われて自分でも何故だか解からない緊張感を麻梨子は感じていた。それは緊張感なのかすら解からない。
「ふ~ん」
なんとなくぎこちない雰囲気だがその後の会話は不思議と弾んだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「出来たわ」
数分間会話を楽しみながら作業をし、縫い終えた麻梨子。
「ありがとう、何かお礼しなきゃな。考えといてよ、いつで言ってくれて良いから」
「そんなお礼なんて!これが手芸部の仕事だから、気にしないで!」
「ううん、それじゃ悪いからさ何か考えといて。今はちょっと時間がないからもう行かないと、また教室で」
「え!」
「また明日」
「あ!」
そう言って柊は早々と被服室を出て行ってしまった。
(お礼って言われても…)
柊の言葉に少々困惑しながらも、今までに感じたことのない気持ちが心に残っているのが解かった。
「柊君か…」
名前をつぶやき、しばらく柊の出て行ったドアを見つめていた。
翌日、教室で顔を合わせた二人だったが、互いに昨日のお礼の件を切り出せず、いつしかすっかり忘れてしまった・・・。
これが朝倉麻梨子と柊了希のファーストコンタクトだった。