M三 初コンタクト
「っと、あとは戸締りをして帰るだけね」
もうすぐ夏休み。生徒は浮かれ気分で残り少ない一学期を過ごしている七月。
手芸部に所属している麻梨子は、この日一人部活で被服室に残っていた。
『トントンッ』
「!」
突然被服室の扉をノックする音が室内に響き、麻梨子は驚いた!
「ハイ…どうぞ…」
動揺しながら麻梨子は応じた。
「すいませ~ん、服、破れたんで…」
少し開いた扉から男子の声がした。
手芸部は運動部の部活中に破れたユニフォーム等の応急もしている。週に何人かその件で手芸部を訪れる運動部の生徒が居る。
「まだ大丈夫ですか?」
言って部室に入って来たのはテニス部に所属していて麻梨子のクラスメート、柊了希だった。
「あ、柊君…」
「あぁ、朝倉さん…」
二人はクラスメートという事でニ、三度少し話をした程度の関係で特に親しくはない。
クラスの男子誰もが美女だと認めるほどのルックス。柊もそう思っているため、二人きりで居る今の状況に思わず“さん”付けで呼んでしまった。
「大丈夫ですよ…どこですか?」
「あぁ、ここなんだけど…フェンスに引っ掛けて…」
「あ、これなら即ぐに直りますよ、ちょっと待ってくださいね」
言って麻梨子は帰り支度をしていた自分の鞄から裁縫セットを取り出した。
「じゃあ、シャツを貸してください」
柊は少し躊躇しながら。
「あの…汗で濡れてるんだけど…」
「くすっ」
柊の言葉に笑う麻梨子。
「ん?どうしたんですか?」
「すいません、男の人もそんな事気にするんだなぁって、大丈夫ですよ」
柊は持っていたシャツを手渡しながら、
「…何で俺たち敬語で話してんだろ?」
「…そういえば、どうしてでしょう…」
柊に指摘され、麻梨子は“ハッ”となって答えた。
「同じクラスで、毎日顔を合わせてるのにおかしいな…ハハ」
「本当でっ、本当ね」
また敬語で言いそうになったのを慌てて言い直す麻梨子。
「「アハハハハハ」」
二人の笑い声が重り被服室内に響いた。