M二三 焦燥
『ガラガラ~』
瞬間教室の扉が開いた!
「!」
麻梨子は焦った!廊下から近づいて来る足音が聞こえた瞬間、この教室に入ってくる事も少しは予測していた。しかし実際に扉が開くとなんとも言えない恐怖感が麻梨子を襲った。
教室に入ってきたのは何と柊だった!
逆光になっていて、麻梨子からは柊だと視認出来るが、柊からは逆光の中に立っているのが誰なのか判らなかった。
柊は逆光の中の人物が誰なのか確認しようと麻梨子に近付いた。
「柊…君…」
麻梨子は焦りと興奮でどうして良いのか判断できず、思わず柊の名を呼んだ。すると柊はその場で足を止め、
「こんな遅くまで何やってんだ?」
冷静に麻梨子に問いかけた。
麻梨子は咄嗟に、
「え!ちょっと調べ物を…」
本当の事など本人に言えるはずもなく、ウソの言い訳をした。
「ふ~ん…俺は忘れ物を取りになっ」
言って柊は自分の机からDVDを取り出し鞄に入れた。
その柊を見ながら、約三年ぶりに柊と会話をした麻梨子は感激していた。
「じゃあ俺行くけど、いくら日が長いとはいっても遅くまで居ると帰り危ないぞ」
言って、柊は教室を出ようとした。
(え!え!もう行っちゃうの!?)
麻梨子はこの時を逃すともう二度と自分の想いを柊に告げられないと思った。そう思うと、
「待って!!」
無意識に柊を呼び止めていた!
振り向く柊、我に返る麻梨子。
まったく対照的な心境の二人が向き合う。
顔が赤くなるのを自分で感じていた麻梨子。
「そっその…あ、あの…」
次の言葉が言えない!
「一人で帰るの?」
(違う!そうじゃない!)
葛藤する麻梨子。
「ん!?一人だけど…」
自分が言ってしまった言葉と、柊の一言で麻梨子は覚悟を決め、
「一緒に帰らない?」
言った。
本当はこの場で、このタイミングで柊に『好き』だと告げたかったが、今の麻梨子にはこれが精一杯の言葉だった。
それを受け柊は面食らった様な顔をしたが、
「あ…別にいいけど…」
なんと麻梨子の申し出を受諾した。
あっさりと要求を受け入れてくれた柊に、麻梨子は一筋の光明を見出した。
「ありがとう」
麻梨子は俯きながら、嬉しさからかすかに微笑みながら言った。
(まだ告白するチャンスはある、あとは私自身の勇気だけ)
麻梨子は自分にそう言聞かせた。