M一四 自己紹介、くしゃみ
「じゃあ、先に行くわよ」
言って家を出た麻梨子。
入学式から一夜明け、今日から新学期がはじまる。
(やっと柊君に会える…楽しみ…でも、私の事覚えてるかな?)
今日の事を思うと昨日一日がとても長く感じられた麻梨子。そんな感覚を紛らわそうと出掛けに行く事を計画したが、それも結局出来ずやっとの思いでこの朝をむかえた。いざむかえてみると期待感の反面、不安感も同時に抱えていた。
麻梨子は家から学校までの通学路を歩いて登校している。たまに自転車を使うこともあるが、それほど遠くない距離のためなるべく歩くようにしている。
不安感もあったが、比較的速い足取りで学校に到着した。
『ガラガラ~』
教室の扉を開くと数人の生徒が既に登校していた。
「おはよっ麻梨子」
先に登校していた美夏があいさつした。
「おはよっ美夏」
麻梨子も同じ様に軽快にあいさつした。
「昨日、ごめんね」
少しの間美夏と会話した麻梨子は自分の席に移動した。その途中、柊の席であろう席を見た。しかしそこにはまだ誰も座っておらず柊がまだ登校していないことを物語っている。
麻梨子は自分の席に着くと、一緒について来た美夏との会話の続きを楽しんだ。会話しながらも時折教室に入ってくる生徒を確認する麻梨子。そんな麻梨子を見た美夏は、
「どうしたのさっきから?誰か待ってるの?」
「え!」
美夏に気付かれ問われた麻梨子は咄嗟に、
「ひいっ…!」
「ひい?」
「ううん!だっ誰が同じクラスなのかなぁって思って…」
「どうしたの?そんなに焦って」
「ううん、なんでもないのよ!」
「変なの」
咄嗟とはいえ、危うく柊の名前を言いそうになった麻梨子。美夏も(やっぱり最近の麻梨子は何かおかしい)と思ったが口には出さなかった。
しばらくして一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
『ガラガラ~』
と、同時に教室の後ろの扉が開いた。
「じゃあ麻梨子、私、席に戻るね」
言って、美夏が麻梨子の席を離れた。
「うん」
言って、麻梨子は直ぐに後ろを振り返った!
そこには自分の席に向かって歩く柊の姿があった。
(柊君…)
麻梨子は約三年ぶりに間近に見る柊に感激した。
そのまま柊が自分の席に座るまで見届けた。
柊が椅子に腰掛けた瞬間、再び柊と同じクラスになれた事を確信した。同時に三年前と変わらず柊に恋心を抱いている事を麻梨子は実感した。
(覚えてますか?中学二年の時に同じクラスだった朝倉麻梨子です。私はこの三年間、片時もあなたを忘れた事はありません…これからの一年間よろしくお願いします…)
麻梨子は祈る様に、言葉に出来ない自己紹介を柊に送った。
「クシュンッ」
すると柊が突然くしゃみをした!
「クスッ」
麻梨子は『自己紹介が伝わった』と思い、思わず笑ってしまった。