M一〇 理解した気持ち
「んっ…んー、もう朝…?」
部屋中に響く有線のタイマーで麻梨子は目覚めた。
「おはよう…麻梨子ぉ」
トーンダウンしたハスキーボイスで同室のクラスメートが言った。
「うん…利沙、おはよう」
麻梨子も返す。
「さすがの麻梨子でも朝は苦手みたいね」
なかなかベッドから体を起こさない麻梨子を見て、笑いながら利沙が言った。
「え?そうかなぁ?」
普段寝起きの良い麻梨子だが、この朝は布団から出たくなかった。
それは昨夜見た夢が原因だった。
(柊君が夢に出てきた…何故?)
その夢を思い出すと、不思議と胸がドキドキした。
(この余韻が心地良い…)
「麻梨子、そろそろ用意しないと、遅れるわよ!」
(あ!)
ベッドでウダウダしている麻梨子とは対照的に、利沙は既に着替えを終えようとしていた。
麻梨子はベッドの頭にある時計を見た。
「七時一〇分!」
言いながら麻梨子は慌てて飛び起きた。
七時三〇分から朝食のバイキングが始まる。麻梨子は大急ぎでパジャマ代わりの体操服から制服にきがえ、食堂へと移動した。
「くすっ」
その光景を見ながら利沙は微笑んだ。普段の麻梨子の優等生ぶりからは想像も出来ない目の前の光景に。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(間に合った~)
集合のリミット5分前に食堂に到着した麻梨子たち。
(ハッ!)
自分の席に移動する途中柊の姿が麻梨子の目に入った。
柊を見ただけで鼓動が大きく脈打つ。『カーッ』と顔が赤くなるのが自分でも判った。
途端に恥かしくなり、周りに気付かれないようにして足早に席に着いた。実際にはそんな麻梨子の変化に気付いた者は居なかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
それからの修学旅行中、恥かしさで麻梨子は柊と会話どころか顔すらまともに見ることが出来なかった。
それが柊への恋心だと気付いたのは修学旅行から帰った数日後だった・・・。
(あれから私は、想いを告げる勇気を持てないまま柊君を見つめる事しか出来なかった…。でもまたこうして同じクラスになれた…。今度こそ後悔しないように、自分の想いを告げよう。それがどんな結果になっても私はそれを受け止める)
あれから三年弱。
『もう後悔はしない!』
そう心に誓い写真をアルバムに納めた。