M九 モヤモヤ
「ね、ロビーで何か飲まない?」
水野が言った。
「うん…。あのね、私、ちゃんと会ってお礼が言いたいの」
「え?」
「柊君に…」
「麻梨子…」
柊に会ってお礼が言いたい。それは麻梨子の本心からの思いだった。
「う~ん…じゃあ、そうしようか」
「うん」
二人は同時に今歩いてきた廊下を引き返し、男子の泊まっているフロアにむかった。
「でも麻梨子、柊君の部屋どこか知ってるの?」
「あ!」
男子の部屋割りまで麻梨子が把握しているはずもなく、途中で歩を止めた。
「どうしよう…」
「でもまぁ、しばらく廊下で待ってれば出てくるかもよ」
「うん、そうね…」
とりあえず男子の泊まっている階にエレベーターが止まり、廊下に出た二人。
「良かった~とりあえず先生は居ないみたい」
静まり返った廊下に麻梨子と水野の二人だけが立っている。一度二人はフロアの端まで歩いて、再びエレベーターの前に戻ってきた。
この間も教師と鉢合わせにならないかと神経を尖らせていた二人は、ただ数十メートル歩いただけでひどい疲労感を感じていた。
「やっぱりどこか分からないわ」
ため息混じりに水野が言った。
「美夏面倒だったらもう良いよ。後は私一人で待ってるから」
「なに言ってんのよ麻梨子。私だって助けてもらったんだから最後まで付き合うわよ」
「ありがとう美夏」
アテもなくただフロアで柊が現われるのを待っていたが、その間誰一人そのフロアに現われずとうとう就寝の時間になってしまった。
「これ以上は無理ね、先生にこんな所で見付かると面倒だし」
「うん…そうね…」
二人は自分たちのフロアに移動した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「じゃあね麻梨子。同じクラスなんだから、明日またお礼を言うチャンスがあるわよ」
「うん…」
二人はそれぞれ自室へと戻っていった。
(何、この胸のモヤモヤは?)
(でも嫌な気持ちじゃない)
何ともいえない違和感を抱きながら、麻梨子は眠りに就いた。