第十話 逃げた意味なくね?
久しぶりです
「…あら?ダイチ様?」
レンカが大地が眠っているであろう木陰を見ると、そこに大地の姿はなく、静かに木の葉が揺れていた。
キョロキョロと訓練場を見渡すが、やはり大地を確認できない。
どこへ行ったんだろう、と考えていると
「レンカさーん、少しお時間いいっすか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
騎士団のなかでは若そうな男がレンカに話しかけた。
レンカはニコリと微笑むと彼の方に向き直した。
この女、身分の差別をせず誰にでも優しく振るうことから城の中では大人気で、めちゃくちゃモテていた。
レンカ親衛隊が出来るぐらいにはモテていた。
城下町の子どもたちにも大人気で、大人たちも、レンカが少しアワアワしているところをみてほっこりするそうだ。
これでモテないわけがない。
今さっき話しかけていた男も無論そっち目的だ。
「さっきまでボーッとしてましたけど、なんかありました?いつものレンカさんらしくないっすね。」
「そうでしたか、すいません。少し、考え事をしていまして。」
「自分、相談ならのりますよ✨」
なんともまぁ、アピール全開である。
しかぁし!そんなアピールは無駄に終わるだろう。なぜなら、レンカはラブコメの主人公並みに鈍いのだ!
そこの若い海he、間違えた、騎士よ。強く生きるんやで。
「あ、結構です。」
「あ、ハイ。」
バッサリ切り捨てたレンカであった。
そして、レンカはあることを思いだし騎士に尋ねた。
「そういえば、ダイチ様がどこへ行ったかご存知ですか?」
「ダイチって、あぁ救世主様か。いや、知らないっすね。」
「そうですか…。彼、あの後に休ませていたんですけど、どこかに行ってしまったようで。」
そう言いながらレンカは先程のことを思い出していた。
「あぁ、たしかに。ぶっ倒れかけてたっすからね〜。」
ポリポリと頭を掻きながら騎士は話す。
「…。」
「…。」
なんとも言えない空気が二人の間に鎮座する。
「で、ではっ、私はダイチ様を探してきますね!」
そう言うと、レンカはそそくさと訓練場を出ていってしまった。
「あっ。」という騎士の漏らしたことばに気づくことなく。
「逃げ出してきたはいいものの、これからどうしようか?」
俺は路頭に迷っていた。
こっそり逃げてきたのはいいものの、何をするかも決めず、ノープランのまま来てしまったのだ。
さっきの訓練で体はいたいし、城は広いし、何も決めてないし。
あれ?逃げ出した意味なくね?てか、この後俺怒られるくね?
…今更悪寒がしてきやがった。寒気なのか疲労なのか、体がプルプル震えている。(多分疲労)
「や、やばいよ。逃げなきゃ…、って、ここは。」
知らずのうちに随分と遠くまで来ていたようで、目の前には初見の部屋があった。
召喚特典なのか、この世界の文字が読めるようになっていて、扉の上についてあるプレートには
”第一書庫”と書かれていた。
「書庫…。」
気づけば俺の体はその扉に近づき、手をかけていた。鍵がかかっているかもしれないのに。
”本が読める”、そう思ったのかもしれない。
偶然か必然か、地球で本の虫だったから、異世界の書物に惹かれたのだろうか。
そんな疑問を抱いても俺の体は止まらず、抵抗なく開いた扉から、書庫へと足を運んでいった。
「おぉ、すっげえ数だな、、!」
俺を待ち構えていたのは圧倒的な量の本たち。一冊一冊、丁寧に本棚に収納されている。
この光景を見て興奮しないものがいるだろうか、いやいない。
キラキラと目を輝かせてあたりをみわたす。子供みたいとか言うなよ?
現代の本とは違い、活版印刷ではなくおそらくすべて手書き。
それが何百、何千とあるんだよ?どんだけ金かけてんの!?
一番近くの本棚にあった本を一冊手に取る。
動物の毛皮なのか、手触りがめちゃくちゃいい。
パラパラとページをめくってみると、よくわからない魔法陣やら術式やらがインクで書かれていた。
「これだけ集めるとか、ほんとにこの国魔法第一じゃないの?力is powerって感じじゃないよ、これ」
パタン、と本を閉じ、下の場所に戻しておく。
「…だめだ、頭痛くなってきた。ちょっとやすも。」
感動と疑問で頭の中が忙しい、少し整理しないと。
そんなことを考えている俺の体の中で、あるモノが反応していたことは、疲れ切った俺が気づけるはずもなかった。
『固有スキル”ノベル”の解放条件をクリアしました。
よって、”ノベル”を次の段階へ進めます。
<解放条件その1>
・本に触れる クリアしました
・異世界の言語を習得する クリアしました
2/2 達成済み
新たなスキル”速読”、”保管庫”を獲得しました。』
…