プロローグ
この世界は一体誰が作ったのだろう?
ビックバンか? 神か? もしくは人か?
一体だれが何のために作ったのか。
そもそも世界が存在する理由は何か。
自然現象の偶然が積み重なり文明が生まれたのか、神による遊びの一環なのか…。
ある世界に勇者がいた。
彼はその世界を恐怖の底に落とした魔王を倒すべく、出会い、別れを繰り返し、遂に魔王を倒し世界を救ったのだ。
しかし、勇者はさらなる高みを目指し、神に挑んだ。
この世界をも倒そうとしたのだ。
そして、勝った。勝ってしまったのだ。
神が居ない世界の結末は決まっている。
当然、世界は滅んでしまった。
最強になったはずの勇者にも何もできなかった。
運命は何も変わらなかった。
これでおしまい…。
「……はぁ、また失敗だ。」
一人の男が机に突っ伏す。
バサバサッ、と無数の紙が落ちていく。
しかし、それを拾い上げる気力はこの男にはなかった。
先が丸まり攻撃力の下がった鉛筆、文字で半分ほど埋まった原稿用紙、捨ててもギリ怒られない量のコーヒーが残ったマグカップ、なんの変哲もないただの机の上だ。
果てのない白い空間に、無数の本棚と彼がいることを除けば。
「やっぱり、異世界物は難しいな。思いつきで作ったけど、すぐ世界滅んだし。見切り発車は長続きしないもんだ。というか、深夜テンションで作るもんじゃないなw」
そう言いながら、先程滅んでしまった世界に手をかざした。
すると世界は縮み、少し鈍色の光を放つ一冊の本になった。
「これで何回目になるのかな。」
乾いた笑いを漏らしつつ、その本を本棚に納めた。
数にしておよそ1000の本が本棚に収められている。
そして、本棚には”失敗作”という紙が貼っている。
それと同様、”俺の力作”という紙が貼ってある本棚もあるが、その棚に本は収められおらず、蜘蛛の居住スペースとなってからしばらく経つ。
「スライムに転生、無職が異世界で本気出す、チートスキルで俺TUEEEEEEEE……。テンプレすぎだし、パクリだよなー。これ」
また机に突っ伏す。
「ラブコメだけは書きたくないんだよ〜。虚しくなるから。なんかいいアイデアは…。」
あーでもない、こーでもないと独り言や、彼女いない歴=年齢の心の叫びが聴こえてきた。
「…あ、そうだ!確か中学の時に書いた奴があったじゃん!」
ガバッ、と勢い良く立ち上がると上に向かって手を掲げた。
呼応するかのように、周りの本棚が消え、一つの本棚だけが残った。
手入れをしていないのか、埃をかぶり白っぽくなっているものたちの中から一冊の本を取り出した。
それは本より辞典と言ったほうが良い位の厚さだが、そんなことは彼には関係なかった。
「おおー、相変わらずやばいの書いてんなw。でも、これなら行けるかも!」
苦笑混じりの声で気合を入れる。
彼の前に机が現れると、椅子に座り、削り直した鉛筆を再び握った。
「よし、書くか!」
そして、白紙の紙に筆先を置いた。
ここから物語が始まる…。
始まり始まり(2025年6月14日 改)