四不思議目 音楽室の怪
我が校の音楽室には奇妙な噂がある。そこのピアノであるフレーズを弾くと、神様が現れるというのだ。現れた神様は特に願いを叶えてくれる訳でもなく、普通に5分くらい世間話をして帰って行くそうだ。
この学校では他にもいろんな怪奇現象が起きており、面白おかしく七不思議などと呼ばれている。
私はこの学校の教頭として、こんな不気味な噂が流れているのが我慢出来ない。学校は子ども達がのびのびと遊び、ガリガリと勉強し、すくすくと育っていく場所だ。それを邪魔する怪異なんて存在していていいはずがない。
そこで私はついに動き出した。七不思議を無くしてしまおうと思ったのだ。今回はその中でも1番話が通じそうな相手を選んだ。怖いからとかじゃなくて、肩慣らしにちょうどいいかと思ってね。
生徒が全員帰った後、私は音楽室へ向かった。不安はない。神様というくらいだからさぞ優しいのだろう。むしろ楽しみだ。
音楽室に入ると、異様なほどの肌寒さを感じた。やはり歌には情熱がこもっているから、部屋を冷やさないと熱中症になってしまうのだろう。
私は部屋の真ん中に佇むピアノに目をやった。何の変哲もないごく普通のピアノだ。私はピアノの椅子に腰を下ろし、鍵盤に手を置いた。
「ヨモジ〜さま、出てきてくれ〜♪」
ドレミ〜レド ドレミレドレ〜♪のメロディを弾きながら呪文を唱える。チャルメラだ。
『よんだか』
ピアノからまん丸のお爺さんが出てきた。コイツが例の七不思議の神様『ヨモジ様』で間違いないだろう。
ヨモジ様を呼んだものは5分間世間話をしなくてはならない。世間話からどんどん踏み込んでいって、なぜこの部屋に出てくるようになったのか聞いてみよう。
「はい、呼ばせていただきました。実は私ずっとヨモジ様とお話させていただきたいと思っておりまして」
『はいはい』
「適当に話題を持ってきましたので、今日はどうかよろしくお願い致します」
『はよはよ』
急かされた。神様ってもっと余裕のある生き物だと思ってたのに。生き物⋯⋯?
1つ目の話は校長の話だ。この七宝小学校の七宝校長は猫みたいな見た目で可愛いのだが、人使いが荒く、思想が怖いのだ。私含め全員午前4時まで残業させられて朝は7時から出勤だし、生徒が悪いことをすると酷い時は命を奪うこともある。
『はよはよ』
しかし、いい所ももちろんある。たまに褒めてくれるのだ。馬車馬のように働かされた我々を気遣い、1ヶ月に1回のど飴と共にお褒めの言葉をいただけるのだ。それが今日だった。
「今日校長が私の耳たぶを褒めてくれたんですよ! ちっちゃくてお金貯まらなそうだねって!」
『よかたな』
反応薄いなぁ。
「うち、猫飼ってるんですよ。ヨモジ様は猫好きですか?」
『かわいい』
好きなんだな。
「そういえばこの間メロンパン買って、家に帰って開けてみたら誰かにひと口かじられてたんですよ!」
『ねこにか』
コイツ4文字しか喋らねぇのか? だからヨモジ様って名前なのか? そろそろ本題に行ってみるか。
「あなたはなぜここに現れるのですか?」
『寂しいから』
あれ、4文字じゃない。
「生徒が不安になってしまうので、もう出てこないでいただけますか?」
『やだ、ワシ寂しいもん』
寂しいからって出てくんなよな。お前らのせいでこの学校は心霊スポット扱いされてるんだぞ。
「寂しいとか知らんから、もう2度と出てくるな!」
『ならお前が来い! そうすれば寂しくないいいいいいいい』
そう言うとヨモジ様は私の腕を掴み、ピアノに引きずり込もうとした。しかし、私は見ての通りゴリマッチョだ。ジジイに引っ張られて動くような体ではないわ。
「ヨモジ、うぬの力はその程度か!」
『なに! なんじゃお前のその筋肉は! 引っ張っても無駄だというのか、ならば、この腕だけでもちぎって持ち帰ってやろう!』
なんでこんな怖いやつが神様って呼ばれてるんだ。ヨモジ様は全力で腕を引きちぎろうとしている。だけどおいら負けないよ。
「ぬうん!」
『バ⋯⋯バカな!』
「ねやあ!」
『なに! 片腕でワシを持ち上げるだと!?』
「ハハハハ〜! 教頭の肉体は砕けぬ 折れぬ! 朽ちぬ!」
私はそのままヨモジ様を職員室に連れ帰り、彼に音楽教師になってもらうと皆に宣言した。
校長の許可も貰い、今ではヨモジ様は地々井先生として働いている。ちなみに元々音楽担当だった三島先生はクビになった。