二不思議目 トイレの怪
オレは5年3組31番、目辺 郎一だ! 今日は近頃噂になってる七不思議について調べていこうと思うぜ! つってもこの前1つなくなったから今は六不思議なんだけどな! はは!
今回オレが調査するのは北校舎3階の男子トイレだ。まぁベタな話なんだが、個室に入ってうんこをしていると誰かの声が聞こえてくるらしいんだ。でもオレは幽霊なんて1ミリも怖くないから、実際に行って確認してみるよ。
現在15時04分。授業が終わったばかりなので、まだ生徒もたくさんいるし、クラブ活動がある生徒もいる。幽霊の噂なんだし、できるだけ暗くなってから実行したいな。
そう思ったオレはしばらく散歩することにした。裏にある遊具でみんなと遊べれば時間つぶしとしては1番良いんだけど、あいにくオレには友達が1人もいないんだ。なんか分かんないけど誰も近づいてこないんだよな。先生も誰1人近づいてくれない。
まぁいいのよ、それは。ひとりっ子だからひとり遊びにも慣れてるし、寂しいと思ったことはないよ。ただ、友達と遊んだほうが時間が流れるのが早いのかなって思って⋯⋯
さてコンビニに着いた! 小学生の楽しみといったら買い食いだよな! カレーパンと⋯⋯たまごサンドだな! だいたい小学生はパンしか食べねぇのよ。
レジにカレーパンとたまごサンドを置いて、店員に拳銃を向ける。こうするとタダで買えるんだぜ。すげぇ大発見だろ。
オレはカレーパンとたまごサンドをそれぞれ左右の脇に挟み、学校へ向かった。
下駄箱に一礼し、上靴を履き階段を上る。やっと3階に着いたと思ったその時、どこからか走ってきた男子生徒がオレにぶつかった。オレは階段を転げ落ち、全身を強く打った。
「な、なにすんだよ⋯⋯!」
声を出すのもやっとだ。頭から血が出ているし、肘から骨が飛び出しているし、膝が変な方向に曲がっている。
「それどころじゃないよ! 出たんだよ!」
むむっ、出たっていうのはもしや⋯⋯!
「そこのトイレでうんこして個室を出たら、外国人が10人くらいいたから壁沿いに横歩きして出てきたんだよ! めっちゃ写真撮ってたから多分観光客だよあいつら! 観光客の幽霊だぁ!」
七不思議の噂は本当だったのか。オレは頭から出た血と肘から出た骨をしまい、膝を戻しトイレへ走った。
幽霊は怖くないが、興味はある。だって、楽しいじゃないか! ロマンじゃないか!
特にうんこがしたい訳でもなかったが、幽霊をおびき寄せるためにオレは腹に全力を込めた。
にゅぽん
すこーしだけ出た。これ以上ふんばってもおそらく何も出ないだろう。オレは個室を出た。するとそこには、小さな体の男子生徒がいた。1年生の子だろうか。
「そんなところに突っ立ってなにしてるの?」
「⋯⋯⋯⋯」
その子は何も答えない。
「もしかして迷子か? 普段行かない校舎に来て迷ったのか?」
「⋯⋯⋯⋯」
仕方がないのでオレはこの子を職員室に連れて行くことにした。もう日が暮れそうだが、先生たちは翌日の朝4時頃まで学校いるらしいから大丈夫だろう。
「そうそう、オレの母さんがさぁ〜、幽霊がいるとか言って家中に発砲するから大変なんだよ〜」
「⋯⋯⋯⋯」
長年友達がいなかったオレにとって、この時間はとても幸せな時間だった。言葉は返してくれないが、オレの後を歩いてついて来てくれている。嫌ではないということだ。前にも1回だけこういうことがあったなぁ。
「この前空見たらオレが浮かんでてさぁ〜って、あれ? おい⋯⋯」
後ろを向いて確認すると、あの子はいなくなっていた。いつの間に⋯⋯やっぱりオレの話を聞くのが嫌だったのだろうか。そう思った時だった。
ぐるるるるるる ぎゅるるるるるるる
激しい便意がオレを襲った。やばい、来た道を戻るとなると1分はかかる! 耐えられるか、オレの肛門! 肛門括約筋!
オレは少し漏らしながらやっとの思いでトイレにたどり着いた。個室の方を見ると、扉が閉まっている。もしや――と悪い考えが頭をよぎる。いいやそんなことはない! そんなことがあったらオレの尻がもたない!
個室の前まで行き扉を見ると、本来なら青でなければならないはずのところが、赤になっていた。鍵が閉まっているのだ。
「うう⋯⋯うぅあああ!」ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶり!!!!!
絶望したオレはうんこを漏らしながら泣き崩れてしまった。
ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶり!!!!!
うんこの勢いは落ちることなく、その音はトイレ中に鳴り響いていた。
パチパチパチパチ⋯⋯
パチパチ⋯⋯パチパチ⋯⋯
どこからか音が聞こえる。
「ブラボーッ!」
入口の方を見ると、マッチョの外国人が笑顔で拍手をしながらこちらへ歩いて来ていた。2人や3人どころではなく、次々と入ってくる。
「HAHAHAHAHAHAHAHA!!」
パチパチパチパチ パチパチパチパチ
「Hahahahahahahahahaha!!」
あっという間にオレは数十人のマッチョに囲まれ、頭が真っ白になっていた。だめだ、考えるんだ⋯⋯! パニックになってはいけない! オレは必死に目を瞑って考えた。
「HAHAHAブラボーHAHAHA」
うるせぇなこいつら。
「Congratulations!!」
パチパチパチパチ パチパチパチパチ
そういえばさっきのやつは観光客の幽霊が10人くらいいたって言ってたよな⋯⋯? でもこいつらを言い表すなら100人中100人がマッチョ集団と言うはずだ。しかも10人どころか30人はいる。どういうことだ⋯⋯
ハッ! 分かったぞ! うんこの音の大きさに比例して出てくる幽霊のレベルが変わるんだ! さっきオレが『にゅぽん』ってしたうんこに対応していたのがあの子だったわけか! くそ! こんなことが分かったところでどうなるってんだ!
コツコツコツコツ⋯⋯
マッチョたちの後ろから誰かがゆっくりと歩いてくる。誰だ⋯⋯?
「やあ目辺くん、ごきげんよう」
こ、こいつは⋯⋯! オレが唯一小学生生活で喋ったことのある同級生、青田 源五郎だ! なんでこいつが⋯⋯!
「大丈夫かい」
なんだ、助けてくれるのか? そうか、こいつにはマッチョの幽霊たちが見えていないのか! オレのことしか見えていないからこんなに冷静なのか!
「なんてね」
⋯⋯え? なんでそんなことするの?
「キミのうんこ、めちゃくちゃ臭いね。体悪そう」
体悪そう⋯⋯? え、それはちょっと言い過ぎなのでは? めちゃくちゃ臭いって、マジ? オレのうんこってそんなに臭いの? 超ショック⋯⋯
青田はそれだけ言うと、マッチョ集団とともに闇へ消えていった。おそらく彼もこのトイレが見せた幻の一部なのだろう。
その日から目辺は食生活に気をつけ、買い食いをすることもなくなったそうだ。あれからも毎日のように幽霊は目撃されたという。