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一不思議目 家庭科室の怪

 今日の1時間目と2時間目は4年1組の調理実習である。この時間で作るメニューはオムライス、オレンジゼリー、マンゴーラッシーの3品だ。


「それでは、さっき決めた班ごとに分かれてください」


 指示を出しているのはこの学校の家庭科教師である柴崎(しばさき) (かに)だ。彼女は教師歴31年のベテランであり、この七宝(しっぽ)小学校に11年勤めている。


「手元のプリントを見ながらみんなで協力して作りましょう! 黒板にもレシピのポイントを書いていきますので、確認しながら進めてください。分からないことはどんどん聞いてくださいね!」


 柴崎の話を聞き、具材を切り始める児童たち。作るメニューは決まっているものの、オムライスの具に関しては各自持ち寄ったものを入れてもよいということになっていた。


「先生ー! コウジくんが持ってきた具が氷だけなんですけどー!」


 コウジくんの前のまな板には、小指の先ほどの大きさの氷があった。玉ねぎほどの大きさのものを持ってきたらしいが、ほとんど溶けてしまったようだ。


「今日は具材自由ですからね、氷も入れていいですよ」


 柴崎の児童との接し方のポイントは、基本的に優しく接することだ。よほど悪いことをしない限り怒らない。これはこの学校の他の教師には出来ていないことだ。


 コウジくんの氷に対してミツヒロくんが不満をこぼしているが、これも特段悪いことでもない。当然氷は害のない食品であるし、具材にした時に少し塩分を薄めることが出来る。むしろ健康的なのだ。


「せんせー! ユウくんがカマンベールチーズを持ってきました! マジ最高ー!」


「いいですねぇ」


 ユウくんの班の子たちは幸せ者である。チーズとは神の食材、罪の味だ。それがオムライスに入った日には⋯⋯ジュルリ。


「先生、なぜ先生は蟹という名前なんですか」


 クラスで成績が断トツの河里辺(がりべ) ()くんが質問した。彼はガリ勉くんというあだ名で呼ばれており、1日に40時間勉強している超努力家な優等生である。


「河里辺くん、いい質問です。私の両親は私の名前を考える時に『より愛せるような名前をつける』と決めたらしく、両親2人ともが好きだった『蟹』が採用されました」


 柴崎は生まれてから53年間、両親からとても多くの愛情を注がれて育ってきた。今でも3人でお風呂に入るし、川の字で寝ている。


「せんせー! なんでガリ勉くんだけ苗字で呼ぶんですかー!」


 クニオくんが不思議そうに柴崎に聞いている。


「河里辺くんだけじゃありませんよ。分かりにくいから苗字で呼んでいるだけです」


 このクラスには、下の名前が彼と被っている外里辺(げりべ) ()くんがいるのだ。紛らわしいので苗字で呼んでいるだけで、他意はない。


「やーいやーいババア! ババア〜! 悔しかったらオレの尻を叩いてみろ〜」


 どのクラスにも1人はいるクソガキ代表の苦詛(くそ) 牙㐂(がき)くんも、柴崎からすると今まで何人も見てきたヤンチャな子どもの1人に過ぎない。ベテランなので当然クソガキの扱い方も心得ているのだ。


「うるせぇクソガキ! 死ね!」


 そう言いながら牙㐂くんの股目掛けてゴルフクラブをフルスイングする柴崎。ゴルフクラブは見事股間に命中し、牙㐂くんのキンタマはちょうど空いていた東側の窓から飛び出していった。


 余談だが、このキンタマがちょうど野球の授業でレフトを守備していたヨシオくんのグローブに着地し、そのせいでボールが取れずヨシオくんのチームは負けたという。


 そしてこの日より、6年生全員によるヨシオくんいじめが始まったそうだ。いじめはいけないことなので、校長の考案した毒内科検診作戦によりヨシオくん以外の6年生は死亡した。


 キンタマを失った牙㐂くんは牙姫(がき)ちゃんとして調理実習を続行した。皆の頑張りのおかげか、2時間目が始まった頃に全てのメニューが完成した。


「さあいただきましょう! 今日はスプーンだけで食べられるものばかりなので、箸は無しでいきましょう! 各机にある引き出しからスプーンを出してください!」


 いよいよ実食だ。柴崎の机には各班の作った料理が少しずつ集まっていた。柴崎はこれをレインボーメニューと呼んでいる。


「きゃああ!」


 1人の児童が悲鳴をあげた。


「うわあっ!」


 また1人。いったい何が起こっているのだろうか。


「先生、ハズレのスプーンしかありません!」


「こっちの机も!」


 どうやら全ての班のスプーンがスープをすくう用の小さくて丸っこくて深いスプーンだったようだ。本来ならこの教室の机には、カレーライスなどによく使われるタイプの大きめのスプーンが入っているはずである。


「ゆ、幽霊の仕業ですか⋯⋯?」


 3班の(おか) 瑠斗(ると)くんが震えた声で言った。


「まあまあ落ち着いて、幽霊なんていませんよ!」


 柴崎が児童たちをなだめる。


「うわあああああ! お化けだあぁぁぁ!」


「いやぁあああ! ぎぃやああああ!」


 皆パニックになってしまった。叫び声を聞いて駆けつけた教頭が警察を呼び、スプーンの指紋採取が行われた。


「ええ、度々こういうことがありまして⋯⋯学校の七不思議なんて噂が広まってましてね、そろそろ犯人を捕まえないとと思った次第です」


 教頭が警察に事情を説明している。この家庭科室で起こったおかしな現象は今回が初めてではないのだ。11年ほど前から常習的に起きており、児童の中には『魔の家庭科室』と呼ぶ者もいるのだとか。


 スプーンから柴崎の指紋が見つかり、彼女は逮捕されることとなった。それから裁判にかけられ、2年後に判決が出て終身刑となった。この学校の七不思議が一つ減ってしまったのであった。

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