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秋桜

気がつくと俺はベッドに寝かされていた。


 「おう、起きたか。さっきはすまんかったな」


 声が聞こえた方向を見ると、金髪長髪の長身の女性が俺の隣に立っていた。


 「えっと・・・、ここは?」


 「ん、ここは私の部屋や。あんたきぃ失っていたからな」


 どうやら少し言葉遣いが荒い女性の部屋に俺は居るらしい。


 「あき君アスファルトに思いっきり頭ぶつけてたけど大丈夫!?」


 部屋の扉が勢いよく開き秋津さんが出て来た途端、俺の隣に行きもの凄く心配している。


 「えっと・・・、特に問題は無いかな」


 どうやら頭をぶつけたらしいが頭の痛みは無い。


 「火夜姉がとっさにしちゃった事なの本当にごめん!火夜(ひよ)姉も謝って」


 「たく・・・、偶然だったんだよ偶然。後もう謝ったぞ」


 金髪の女性はぶっきらぼうに言い放った。もしかして、謝ったというのは起きがけに言われた言葉だろうか。


 「秋津さんこの人は?」


 さっきから俺を置いてって話が進んでいるがどうやら秋津さんと火夜姉と言われる女性とは仲が良いようだ。


 「あ〜、言ってもいいかな?火夜姉」


 「別にいいぞ」


 秋津さんが了承を取り、その火夜姉について話し始めた。


 「えっとね、あき君。この人は火夜真弓(ひよまゆみ)さん。私の先輩に当たる人です・・・」


 「先輩?」


 先輩と言われると学校の先輩だろうか?火夜さんの見た目からして大学生ぐらいに見える。


 「あっ、えっとぉ・・・」


 「おい何故露骨に目をそらすんだ。何か隠しているのか?」


 「そのぉ・・・」


 「どうしたんだ?なにか言いづらいことでもあるのか?」


 どうも秋津さんの様子が可怪しい。何故か私の先輩と言ってからどこか言いづらそうなのだ。先輩と言われる人は多くは無いだろう。学生、会社員など主にその職業に就いて、自分よりも歴が長い人の事を指す言葉になる。そうして俺は一つの結論にたどり着いた。


 「まさかな・・・。違うよな・・・?」


 そんな事が有るはず無い。そんな偶然有るはず・・・。


 「兄ちゃん勘がええな。そうや、私がエクスペリエンス所属一期生。緋ノ浦一火(ひのうらいちか)その人や!」


 俺の思考を遮り真弓さんはありえないことを言ってきた。


 「緋ノ浦一火ってあの緋ノ浦一火ですか・・・?」


 「そうや、それ以外に何がいるんや」


 まるで当然かのような言い草に俺は一旦落ち着くことにする。


 「少し落ち着かせてくれ」


 一旦落ち着こう。そうだなさっきこの人が言っている火ノ浦一火についてでの話でもして落ち着こうか・・・。火ノ浦一火。桜庭アリスも所属しているエクスペリエンスの一期生。初期の頃から事務所を支え、姉御肌と名前にも入っている通り火のように熱い。所属ライバーからも頼りにされ、配信ではリスナーのお悩みに答え、活を入れるお便り返信のコーナーが人気を博している。桜庭アリスと仲が良く、頻繁にコラボ配信をしており、桜庭アリスがまるで姉に甘える妹ような態度を配信内で取るので、緋桜てぇてぇと言われファンの間で親しまれている。因みにてぇてぇとは尊いが訛ったものとされ、主にVtuber同士の仲の良さに対する語彙を我々は持ち合わせていないので、それに対する感想に良く使われる。閑話休題。とりあえず秋津さんを見るとあちゃ~と手を目の上に置き、天を仰いでいた。


 「本当に火ノ浦一火なんだな・・・」


 「はいそうなんですよ・・・。誰かにつけられてる、助けてって火夜姉にメール打ったら、火夜姉たまたま同じビルでの収録だったから急いで駆けつけてくれたんだよね」


 「それで駆けつけたら、俺がストーカーだと思われてドロップキックされたと・・・」


 まだ痛む背中を擦りながら言った。


 「そんな感じです・・・」


 「なんや、別にそんぐらいええやろ」


 「火夜姉そうゆう問題じゃないの!私も謝るから」


 そう言って秋津さんは火夜さんの頭を押さえつけて謝らせようとしている。


 「いや別に謝らなくていいですから。あの時俺も紛らわしい所に立っていたし」


 「ほな、兄ちゃんもそう言ってるんやし、早く手どかせ」


 「あき君本当にごめんね。火夜姉がこんな調子なばっかりに」




 そうしてこの騒動は幕を閉じたと思われた。


 「それじゃあ配信してくるから、騒ぐなよ。それじゃあごゆっくり」


 そう言って火夜さんはこの部屋を出ていってしまった。てっきり帰れるかと思い、部屋にかけてある時計を見ると時刻はもう午前一時前を指していた。


 「今日はもう遅いから火夜姉の家に泊めてもらうよ」


 俺の態度を察してか、説明してくれた。夜も遅いので火夜さんの好意に甘えることにする。


 「なんか悪いことしたな。すまん、つけるようなんて真似して」


 「うん。あの時あき君がいてびっくりしたけど、結果的にストーカーから守ってくれたから大丈夫だよ。それでこれなんだけど」


 差し出してきたのは俺がストーカーから奪ったデジタルカメラだった。


 「おい、これガチのストーカーじゃねぇか。何か被害とか受けているか?」


 デジタルカメラに撮影された写真には、今日二人で秋葉原に来た所だけではなく、学校からの帰り道だろうか、制服姿の秋津さんや、私服姿の写真まで撮られている。


 「いや特に被害とかは受けてないよ。一応火夜姉が画像検索してくれて、検索にヒットしなかったから。流出とかはしてないみたい」

 「なら一人で独占したい独占欲の犯行か・・・」


 「身バレとかに繋がる事とかは一切していないのにしていないのにどうして何だろう」


 確かにTwitterや配信内ではそのような発言はしていないので身バレする理由は一つもない。


 「運営にはこの件は言ったか?」


 「うん。この事は警察に相談する形で運営さんが動くって言ってくれた」


 「その間気をつけろよ。まだ犯行には及んで無いが、いつストーカーが行動に移すか分からないからな」


「気をつけるよ。安心してね」


 そうは言うが明らかに動揺しているし、無理している感じがひしひしと感じ取れる。気づいたら俺は行動を起こしていた。


 「一人で無理するなよ。一人で解決しようとしないで周りの人を頼れよ」


 「何言ってるの。別に無理なんてしていないし、運営さんを頼るから大丈夫だよ」


 「嘘だろそれ。いつもより声が固い。もしかして何か隠しているだろ」


 「うるさい」


 急に怒気を含んだ声になった。内心少しビビっているが表に出さず追求する。


 「図星か?隠してないで言えよ」


 「うるさい!あき君に何が分かるの!?こんなのエゴサしてるときに幾つも見てきたし。私がいつもどんな思いしていつも配信していると思っているの?」


 誰かに訴えるように声を零している。


 「そんなの・・・。そんなの分からないに決まってるだろ。俺はな、お前の考えていることなんて分からない。でもな・・・」


 「なら良いよ!そんな事言いたいだけならもう知らない」


 「おい、待てよ!」


 俺が言おうとした言葉を遮り、秋津さんは部屋を出ていってしまった。突然の出来事にパタンと閉まる扉を、俺は睨みつけることしか出来なかった。


 「どうするんだよ・・・」


 ポツリと出た独り言が部屋に虚しく響く。完全にやってしまった。俺はただ秋津さんの気持ちを素直に打ち明けてほしかっただけなのだ。なのに、俺の言葉を勘違いした秋津さんは出ていってしまった。勿論ここらの土地勘など無いのでどこへ行ったか検討もつかない。

 「お〜、結構派手にやったらしいな。さっき玄関からアリスの奴が出ていったぞ」


 扉のドアが開き火夜さんが入ってきた。


 「ちょっと喧嘩しちゃいました・・・」


 俺はただ俯いて言うことしか出来なかった。


 「喧嘩か・・・。あのな兄ちゃん少し話がある。一旦そこに座って話聞いとけ」


 火夜さんはベッドを指している。そこに座れということらしい。


 「兄ちゃん切抜き師やろ?」


 俺は黙って頷いた。


 「アリスが最近よく言っている人にそっくりやしな」


 「アリス・・・、秋津さんが俺の事を?」


 「せやで。最近はいつも楽しそうに話てるぞ。あき君がすごい動画作ってくれるんだよって」


 「そうなんですね・・・。それは嬉しいです」


 秋津さんがそんな事を話していたとは嬉しいが、今は素直に喜べない。


 「そんな湿気た顔するな。何があったんや?話してみぃ」


 背中を豪快に叩いた。どうやら相談にのってくれるようだ。


 「実は・・・」


 俺はさっきまでの出来事を火夜さんに話した。




 「何してんだよ、おまえ」


 開口一番火夜さんの口から厳しい言葉が飛び出した。


 「何か隠してそうだったの真意を聞き出そうとして問い詰め過ぎました・・・」


 「正直に言ってお前何様なんだ?人の心の柔らかい所に突っ込んで、人には聞いて良いことと悪いことがあるんだぞ」


 「はい・・・」


 言い返す言葉がない。確かに自分勝手な理由で個人が抱える問題に突っ込みすぎた。


 「お前はアリスが今一番気にしている所に突っ込んだんや。これ見てみ」


 差し出されたスマートフォンを受け取った。そこに書かれていたのは秋津さんが火夜さんにストーカー被害を受けているかもしれない、という旨が書かれ、それについて相談に乗ってくれている様子の火夜さんのメール履歴が写っていた。


 「分かったか?お前はこんなにもデリケートな内容の物に首突っ込んでるんや。その重み分かるか?」


 「すみません・・・。でしゃばりすぎました」


 「そんな事を聞くためにこうやって話聞いてる訳じゃ無いんだぞ。もう一度言うぞお前何様だ?言ってみんかい」


 火夜さんが問い詰めてくる。


 「桜庭アリスのファンですかね・・・」


 「たかが一ファンがここまで踏み込んでくるか!どうしてこんな簡単な事が分からんのや。そんなのお前がアリスの仲間やからやろ。仲間だからここまで踏み込むし介入してくるんやろ。お前にその自覚は無いんか?」


 声を荒らげて、火夜さんが俺に問いかけてくる。


 仲間・・・。どうしてあの時、秋津さんについて行ったか分かったかもしれない。それは仲間、パートナーを失いたくなかったかもしれない。俺の一方的な勘違いかもしれないがあの時、確かに俺の心に秋津さんを守りたい、そんな独占欲にも似た感情で俺は動いていたのかもしれない。でも俺はあの時攻め立てるよう言葉で秋津さんを追い立てて・・・。


 「すみません、行かせてください」


 「行ってどうするん?しかもこの状況にしたのは、あんたの行動が原因やろが」


 「勿論こんな事にしたのは俺です。だったら、俺に責任を取らせてくれませんか?」


 「どうゆことや?」


 「俺がここまで踏み込んでしまったのは桜庭アリス、秋津沙羅の影響があったからです。だったら俺が・・・、彼女のパートナーして隣に立ちます」


 「立ってどうするんや?まさか支えるとか、そんな誰でも言えそうな事じゃないよな」


 そんな簡単な言葉で秋津さんの隣に立てるとは思っていない。隣に立つからにはそんなの・・・。


 「そんなの彼女を・・・、桜庭アリスを最高のVtuberにしてみせます。そのために彼女の隣に立たせて下さい」


 俺は今持っている覚悟を火夜さんにぶつけた。


 「目の前にアリスの先輩Vtuberがおるのにナメた事言うな・・・」


 火夜さんは少し苦笑まじりに言った。


 「でも・・・良い顔するようになったやんけ。だったら私はその言葉を信じてやる。そんなでかい事を言ったからには絶対にアリスを連れ帰るんだぞ」


 「勿論です!」


 火夜さんは俺の言葉を信じてくれた。今すぐにでも秋津さんを探しに行こうと思っていたら。


 「おい、兄ちゃんもしかして闇雲に探そうとしてないか?だったらこれ持ってき」


 スマートフォンを差し出され、画面を見ると『少し外へ出ます』と書かれた物に位置情報がのった地図が映し出されていた。


 「ありがとうございます」


 場所は分かった後はそこへ向かうだけだ。


 「最後にいいか?」


 部屋の扉のドアノブに手をかけた時、火夜さんが呼び止めた。


 「アリスは普段強がっているけどな、ああ見えて芯の部分は結構弱いんよ。一旦何か吐き出させないと壊れちまう。でも、それは私の役目じゃない。先輩としての立場じゃ、全部経験則で慰める事ぐらいしかできん。これはな、初めて出来た先輩や同期としての仕事仲間じゃない。本気で分かり会える、仲間の立場にあるお前にしか出来んのや。頼んだぞ」


 火夜さんの激励を受け、俺は一歩踏み出し、駆け出した。


 


 「はぁっ・・・はぁっ」


 閑静な住宅街。人っ子一人歩いていない道を全速力で走っている。地図に書かれていた所はここから一キロ程離れていた。急いでそこへ向かうとそこは住宅街を見渡せる、小高い丘にある休憩所的な場所だった。そこで秋津さんは夜景を眺めていた。


 「秋津さん!」


 「織本くん。来たんだ・・・」


 どこかこの展開を予想でもしたこのように、特段驚く様子もなく落ち着き払った調子だ。


 「さっきはごめん。あんなデリケートな問題に土足で踏み込むような真似をして」


 「それで?何が言いたいの?」


 「俺と一緒にこの問題を解決していこう」


 「どうゆうこと?」


 ほとんど表情と口調を変えずに言い放った。


 「これからずっと、同じ業界にいるものとして。仲間として俺の手をとってくれないか?」


 俺は手を差し出し、返答を待つ。


 「そんなの・・・。そんな都合のいい話なんてあるはず無いじゃない!」


 出した手を払い除け、強い拒絶反応を見せた。


 「だって私とあき君は所詮ビジネスパートナー。仕事でしか関わらない存在でしか無いし、公私混合もいい加減にしなよ!」


 耳が痛い話だ。秋津さんの言う通りだ。


 「確かに俺のやっていることビジネスパートナーを超えた、一ファンとしては超えてはならない一線を超えている。だけどな・・・。目の前で推しが傷ついているんだぞ、そんなの救いたくもなるだろ?ここで見てみぬふりをするなんて花びらとして失格だ」


 俺渾身の告白に秋津さんは少し笑っていた。


 「もう・・・。傷つけたのはあき君でしょう・・・」


 「それは言わないでくれ・・・」


 「ふふ。つくづく変だね、あき君は。本当に・・・。本当にこれから仲間として私の手を取ってくれますか?私と協力して、世界一のVtuberにしてくれますか?」


 こんな質問に答えるのは簡単だ。俺は桜庭アリスを・・・。そして秋津沙羅を・・・。


 「世界一どころか宇宙一のVtuberにしてやるよ。宇宙一のVtuberと宇宙一の花びらだぞ?Wetubeで登録者百万人突破なんて余裕だ。お前の配信と俺の切り抜き、合わせれば最強なんだ。そうだろう?」


 俺は秋津さんの告白を豪快に答えた。


 「やっぱりあき君らしいよ。今日を持って秋桜、結成だね」


 「お前も安直だな。akiと桜庭の頭文字取ったのか。最早桜関係なくなってるけどな」


 「いいじゃんコスモス」


 「それもいいな。そうした方が花びらの俺も目立つからな」


 「さっきまで一ファンとか言ってたのに」


 コスモスは秋に桜のようなピンク色の花を咲かせるから、秋桜。桜よりも小さいが可憐で美しい。桜はその見た目と華やかさで人の目を引きつける。配信を桜とするなら、切り抜きは秋桜では無いだろうか?俺は桜庭アリスには沢山の人の目を引きつけてほしい。俺はその華やかさを小さきながらも美しい、秋桜として発信していきたい。


 「そんな事は良いんだよ。まあ、よろしくな相棒」


 俺はさっき振り払われた手を再び差し出した。


 「これから二人で頑張ろうね」


 これから二人で宇宙一のVtuberを目指すユニット、秋桜が誕生したのだった。




 


 「それじゃあ行くか。もう午前三時だぞ、このままじゃ補導されるからさっさと火夜さんの家に戻るぞ」


 「ごめん」


 短い謝罪の言葉を尻目に俺の体に秋津さんの華奢な体が飛び込んできた。


 「なっ!」


 急に飛び込まれたから、踏ん張れずに後ろの芝生に二人して倒れ込んだ。


 「ごめん。ちょっとこのままにさせて」


 二人で折り重なるような体位になり、目の前に秋津さんの可憐な顔が間近に状況だ。


 やっぱり可愛いな・・・。今までこんなに間近で秋津さんの顔を見たことが無いので、改めて見ると小顔で目鼻立ちも整っている。頬は桜色に色めきたっていた。とく・・・とく・・と秋津さんの心臓の鼓動が俺に伝わってくる。それ程までに肉体的距離が近い。


 「あき君って大っきいんだね」


 「ど・・・どこがですか・・・」


 「何か変な想像してるでしょう」


 俺の胸の上を秋津さんの指が這う。蠱惑的な行動に俺の頭はどうにかなりそうだ。


 「じゃあそんな勘違いされるような行動するなよ」


 「もしかしてこれかぁ〜少年」


 「ちょっやめろ」


 また指が這ってきた。そうして今まで気づかないふりをしていたが、ちょっと・・・体位がな・・・。その・・・かなり際どい体制だ、傍から見たら勘違いされそうな程に。正直男としての本能がさっきから刺激されまくっている。


 「あき君って結構鍛えてるんだね。腹筋とか胸筋とか」そんな葛藤は知らないのか気にせず触っていく。


 「中学の時結構運動してたからな。今も筋トレが日課でそこそこ鍛えてるからな」


 「凄いよ、カチカチだよ。だからちょっと胸借りるね」


 「は!?」


 さも当然かのような調子で俺の胸の上に頭を乗せ、腕枕ならぬ胸枕として利用している。


 「温かいよあき君の胸、心臓の音も聞こえる」


 秋津さんは俺の胸に顔を埋め、とろんとした顔で俺の胸を満喫している。


 「なんかくすぐったいな、こうゆうの」


 「すごく良いよ・・・これ・・・」


 「それは良かった・・・のか?」


 まるで温泉に入っているカピパラのような感じだ。


 「今日はごめんね・・・。色々あき君を振り回しちゃって。面倒くさい女だよね私・・・」


 先程までの態度が一変し、弱々しくなっている。


 「もうその態度が面倒くさいぞ・・・」


 「茶化さないで聞いてよ・・・。あき君のいけず」


 「少しぐらい良いだろ」


 さっきまでの蠱惑的な行動から庇護欲を掻き立てられるような、小動物のように弱々しい。


 「いけず・・・。もうこっちの本題に入るからね。どうしてあの時私が飛び出したか、今なら話せるから・・・」


 俺の胸の上で少し恐怖を噛み殺してるような表情で事の顛末を語ろうとしている。


 「ゆっくりで良いから、怖いなら途中で辞めても大丈夫だ。話せる範囲で良いから話してくれ」


 俺は秋津さんの恐怖が少しでも和らぐように頭を撫でた。


 「うみゅ、えへへ。ありがとう」


 少し表情が和らぎ、そして本題の事について語りだした。


 「実はね・・・私DMで脅迫されてるの。でもねこのぐらいの事はたまにあったし、気にも留めてなかったんだけど今回来たやつは違ったの。何故か私の個人情報とか私の写真とかがあって、それと一緒に『次は無いぞ』って書かれてた。この事は勿論警察とかに言ったけど、何か起こるまで動けないって、言われてちゃって。それで今日あき君が拾ったデジカメの写真を見たときに、私に送られた写真が入ってて、それであの男がストーカーって知ったら気が動転しちゃった」


 どうやら事は俺が思ってるいる以上に深刻らしい。


 「もしかして最近配信活動とかしてないのは・・・」


 「うん、ちょっとそんな事する気じゃないし。炎上の事もあったし、ちょっとこのまま休もうかなって」


 秋津さんの顔には今まで心労が透けて見えるほど悲しい顔をしていた。


 「すまん。そんな時に問い詰める真似なんかして」


 「別に良いよ。あの時は私も気が動転してて、冷静な判断が出来なかったし。少し言われただけで飛び出すなんて、こっちこそごめんね」


 あの行動はかなり追い詰めてしまったからしてしまったらしい。逆にそれ程までにあの男は秋津さんを追い詰めているのだ。到底許されざる行為だ。そして最後の一押しをしてしまった俺も同罪だろう。


 「ごめん。ちょっと泣く」


 そう言うと俺の胸に顔を埋めてしまった。俺の胸に温かい液体が染み込んでくる。すすり泣く秋津さんに俺は、背中をポンポンと優しく叩くことしか出来なかった。


 


 「ありがとう。服、ちょっと汚しちゃった」


 目には泣きはらした後が残っているが、憑き物が落ちたような感じで表情がさっきより明るくなっている。


 「俺の服ぐしょぐしょにしといて、今更そんな事気にするなよ」


 「そこは普通、『全然大丈夫だよ』とか言う所」


 「そんな軽口叩けるなら大丈夫だな。火夜さん待たせてるし、早く戻るぞ」


 「あき君!」


 帰ろうとしたら、秋津さんが俺を呼び止めた。何事かと振り返ったら丁度秋津さんの後ろから日の出が昇ってきた。


 「二人で秋桜。絶対天下取ろう!」


 「おう!相棒」


 俺は相棒の問にサムズアップで返した。俺はその日、これ以上相棒を傷つけさせないため、そしてこれから宇宙一のVtuberを目指すため。目標を叶えるその日まで、相棒をどんな時でも支えると誓った。



 書き溜め尽きた・・・。こんにちは、490です。(今更)

 今回の話は現状この小説の中で一番力を入れました。ここで主人公とヒロインの気持ちがぶつかり物語が大きく動くのですが、自分はまだまだ経験が浅いので心情描写に不安があるのですがどうでしょうか?これを友に見せたら後半甘々と言われましたがね笑。次回の章からはもう少し2人の過去について深く書いていこうと思います。

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