バチャ豚出会う!
「起立、気をつけ、ありがとうございました」
「織本くん少し良いですか?」
「どうしたんですか?秋津さん」
ホームルームが終わり一限目の準備をしていると後ろから声をかけられた。
「今日は織本くんが日直ですよね。これ学級日誌です」
「あ、すみません。気をつけます」
やば、今日俺日直だった。
「今度からは気をつけて下さい」
「すみません・・・」
俺は彼女の高圧的な態度に萎縮してしまった。
「秋津さんやっぱり怖いね」
後ろから秀が声をかけてきた。
「本当に、秋津さん怖すぎ・・・」
秋津沙羅、これが彼女の名前だ。頭脳優秀、孤高、氷の女王。うちのクラスでは大体このあだ名で密かに言われている。五月の中間考査では二位と圧倒的な点数差を付け選抜クラス一位に君臨した。彼女は学級委員で真面目なのか、クラスの皆にもさっきの俺のような態度で接しているのでクラスから恐れられている。
「でも、あきもちゃんとしなきゃだめだよ」
「それは分かってるけどそれを差し引いても怖いんだよな・・・」
「まあ、確かに性格に難ありだけどね」
「顔は可愛いんだけどな〜」
あの性格からは考えられないぐらい美人で、同学年の男子からの告白が絶えないのだとか。そのせいか、一部男子の人気は高いが反対に女子からはかなり嫌われている。
「秋津さんね・・・」
「どうしたんだ?美穂?」
途中から美穂を入れて俺達は秋津さんのことについて話していた。
「いやね、これは私のカンなんだけど秋津さん何か隠してる気がするんだよね」
「隠してるって何をだよ?」
「いや、それは私にも分からないんだけど何かあると思う」
「信用ならないなー」
「ちょっと!本当だもん!」
「僕も何か隠していると思うよ。秋津さんは」
「秀もか?秋津さんが何か隠してるね・・・」
「もうすぐで授業始まるぞー」
先生が教室に入って来たのでこの話はここでお開きとなった。
あの秋津さんがね・・・。俺は授業中にそのことについて考えていたが、授業が進むにつれて忘れていった。
「起立、礼、ありがとうございました」
滞りなく帰りのHLが終わりクラスメイト達が部活に行ったり帰路についたりしている。
「じゃあね、あき」
「部活頑張れよー」
美穂を送り出した後、閑散とした教室で俺は秀と雑談をしていた。
「秀、今日俺の家で編集教えてくれない?」
「朝言ってたこと?いいよ。またみっちりと教えてあげるよ」
「ありがとう、助かる。俺は学級日誌を書いたら帰るから秀は先に俺の家に行ってくれ」
俺は自宅の鍵を秀に投げ渡した。
「まったく、自宅の家の鍵でしょう?そんな簡単に人に渡していいのかい?」
「秀は俺の家で何か変なことしないだろ?信頼だよ信頼」
「それは友達として嬉しいな。じゃあ、家で待ってるからね」
「さてと・・・」
俺は秀を送り出し学校へ戻った。
10分ぐらいはたっただろうか、学級日誌はすぐに見つかり手早く書き、俺は足早に職員室に向かった。
「こ・・く・・」
人のいない静かな廊下を歩いていると奥の方から誰かの声が聞こえてきた。
その奥は確か廃教室で誰もいないと思うのだが?
そんな疑問がよぎり、俺はその声の主のもとへ向かった。
足音を殺し、慎重に廃教室向かうと聞こえづらかった声が鮮明に聞こえてきた。
「こんばん桜〜、エクスペリエンス所属二期生桜庭アリスです」
「は!?」
俺は思わず驚きの声が出るのを我慢できなかった。
「誰!」
流石に声が大きすぎたのか彼女に気づかれてしまった。
こうなったらもう出るしか無いか・・・。
俺は意を決して廃教室の中に入った。
「あ〜 すみませんこんな盗み聞くような真似して・・・。って秋津さん!?」
「おっ折本くん・・・」
「いや〜まさか秋津さんがこんな事をしてるなんて初めて知ったよ。秋津さん?」
よく見ると秋津さんは肩を微かに上下させ、口も微かに震えている。
「は・・・はっ」
「どうしたんですか?」
「早く出てってよ!このバカ!」
怒った秋津さんに押され教室の外に出されてしまった。
まさか本当に美穂の感どおりになるとは・・・。俺は彼女の・・・、桜庭アリスの初配信から今日に至るまでこの挨拶を聞き、切り抜いてきた。最早彼女のことを隅から隅まで知っていると言っても過言じゃ無い。そう言えるほど彼女の声に、姿に、そして彼女の人間としての部分に惹かれていった。そんな俺の生きがいとも言える人が教室の扉一枚挟んだ所に居る。そんなのファンとしてこの上なく嬉しいことだ。ただ、一つを除いて。
「桜庭アリスの魂がまさか秋津さんなんて・・・」
俺はため息交じりに今の素直な気持ちを吐き出した。
正直に言うと彼女のvtuberとしての面と人(魂)としての面のギャップに素直に戸惑っている。まさか聞く人全員を包み込むような優しい声で魅了する桜庭アリスの魂が、聞く人を全て凍らせる氷の女王こと秋津沙羅だと誰が予想できるものか。
「折本くんまさか・・・、私がvtuberやってることも知ってるのね・・・。まあいいわ、話があるからとりあえず入って」教室の扉が再び開き、中から落ち着き払った秋津さんが顔を見せた。
「さっきは怒って俺のことを叩き出したくせに・・・」
「何か言いましたか?」
「いえ、なにも・・・」
どうやら氷の女王は健在そうだ。
席に座るように促され、対面の席に座った秋津さんが咳払いをして話を切り出した。
「っうん、織本くん。あのどこまで聞いていたの?」
「何か挨拶をしていたところまで・・・」
「そうなのね・・・」
その声はまるで周りの物が凍りつくような怒気を含んでいた。
「い、いや別に意図して聞いていたのでは無くて学級日誌を職員室に届けようとしただけであって・・・」
「そうなのね・・・」
秋津さんはさっきと全く同じ事を変わらない声色で言っている。
「なので本当に不幸な事故だったんですよ」
「そうなのね・・・」
秋津さんは、壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返している。正直に言ってすっごく気まずい。ただでさえ、氷の女王として普段から恐れられている秋津さんと一緒に居るだけでも背筋が凍るのに、あのような現場を見てしまったからには、生きて帰れるのか分からない。それほどまでに、今この状況は危険なのだ。だからここは秋津さんを怒らせない慎重な言葉選びが求められる。
「えっと・・・、秋津さんはいつもここでこんな事を?」
まあいいか。秋津さんはどこか諦めがついたような感じで話しだした。
「織本くんはもう私の正体を知っているようだから言うけど、放課後いつもここに来て配信のネタ作りとか、さっきみたいに発声練習とかしているよ。まさか織本くんが来るとは思わなかったけどね」
「すみませんでした」
「タメ口でいいよ?話しづらいし」
さっきまでの氷の女王の雰囲気が消え、代わりに唐突なタメ口と普段見ている秋津さんとは百八十度違う喋り口で、さっき秋津さんが桜庭アリスの魂と発覚したときとは違う驚きが俺を襲った。
「えっと、まずその喋り方は何なんだ?さっきと全然雰囲気が違うが」
「結構ストレートに聞いてくるね。まあ小学校までこんな感じの喋り方だったんだよね。今はあんな感じだけどこれが普段のわたしだよどうかな、ドキドキしちゃう?」
「最後の言葉だけアリスの声にするな!正直さっきと今のギャップが違いすぎて混乱してる。後ドキドキはしない」
「そこは全力で否定するんだね・・・」
さっきの言葉で秋津さんがアリスの中の人だと確信した。あの声がこの世に二つとしてあるはずないしな。
「まあ、改めましてよろしくね織本くん」
「ん?よろしくってどう言うことだ?」
「勿論織本くんにこのことがバレちゃったことだし、これからは毎日ここに来てね。この事を他の人に言ったら・・・、分かるよね?」
「あっはい」
こんなふとした出来事で俺達二人は出会ってしまった。これはそんな物語の序章に過ぎない。
テンプレ展開ですね。私はこうゆう王道展開が大好物でございます。そんな事はいったん置いといて、ヒロインの登場です。個人的には学生の時、Vtuberの時、主人公の前にいる時、コロコロと性格や表情を変える多面性を重視してみました。皆さんはどんなVtuberが好みですか?