配信は突然に
「だね〜、こっちもそこそこ早く来たのにね」
温泉から上がったばっかりなのか二人の頬は上気している。他にも淡い桜色の浴衣を着ていて普段見ない姿なのでつい見入ってしまう。
「ちょっとあき〜?なに私たちのことジロジロ見てるの?えっち〜」
「ふぇ?あき君・・・?」
茜が身を捩らせながらわざとらしく照れているのと対照に、秋津さんは周りを全て凍らせるかの如く俺のことを真顔で見ている。
「誤解だ、俺を嵌めようとするな茜。普段見ない格好だからその・・・少し見入っただけだ」
「あぅぁ、そっそういうことね」
言ってみたが案外恥ずいなこれ・・・。
秋津さんは一瞬にして赤面し、俺も目の行き場所が定まらず下の方へ視線がいってしまう。
「うわ、言っておいてなんだけど見事なバカップルぶりだねお二人さん。美香も何か言ってやりなよ」
「大変仲がよくて微笑ましいですね」
「私もそう思います!」
「解せぬ・・・」
先に居た二人は好意的な反応だったが、仕掛けた張本人はどうやら納得していないような表情だった。
「取り敢えず座って話そうよ。八時の配信の事についても話したいしさ」
「ちょっと待て?配信するのか、そんなことTwitterに書いてあったか?」
「ゲリラ配信だよ。せっかくだし今日の事配信で喋りたいしね」
二人が席につき二期生の皆で配信についての話が行われていた。
ゲリラ配信。
それは切り抜き師からしたら頭痛の種のようなものだ。ゲリラ配信とはVTuberが気分でする突発的配信であり、事前に予告などせずに始まる。三十分前ぐらいにTwitterで報告などされる場合があるが俺の場合編集に集中していて気づかず、気づいたら配信が終わっていることもしばしばだ。もしその配信で面白い撮れ高があった場合切り抜き師としてとても悔しい事になる。俺もアリスの配信は意地でも録画しているが配信の二割がゲリラ配信を占める服部綾花の配信にはよく煮え湯を飲まされている。
まじで突発ゲリラは止めてほしい。忍者だからか?忍者だからかなのか?
しかし今回はゲリラ配信の開始時間を聞けたので抜かりは無い。後は夕食を食べてゲリラ配信を楽しむだけだ。
その後マネージャーさんたちが着き、川魚料理中心の夕飯をいただき部屋に戻りゲリラ配信を今か今かと待っていた。
『桜庭アリスさんがライブ配信を始めます』
通知がきてすぐに配信枠へと移り、すぐにサムネイルからすぐにOPムービーに切り替わる。数分が経ち四人の自己紹介から始まった。
「こんばん桜〜、桜庭アリスです。花びらの皆〜今日のことどんどん話していくよ〜」
「こっこんばんは、狐子千冬です。いつも来てくれてありがとうございます。今日も楽しんでって下さい!」
「花?綾!どーも、服部綾花が参上したぞ〜!今日はアリスの醜態を晒していくぞ〜!」
「えっ?ちょっと綾どうゆう事?」
「ふっふっふ。まさかこの服部さまがアリスの醜態を見逃すとでも?それじゃあラストリタどうぞ!」
「はーい。異界から召喚されし紫電の魔女、藤原リタです。綾花さん?アリスさんを虐めてはいけませんよ。代わりに私が綾花さんの遅刻エピソードを暴露しますので安心してくださいね?」
「リタさん・・・?ちょっとそれは勘弁してくださりませんか・・・?」
こうして二期生らしい賑やかなゲリラ配信が始まった。
「所でさっき調べたんだけどさ〜、この近くに射的があるんだけど後で行かない?」
ゲリラ配信も終盤に入ってきた所で服部綾花が提案を持ち出してきた。
「それ良いかも!私射的得意だし!」
「お〜?この百発百中の銃の腕前で数々の射的屋の店主を泣かせてきた服部さまに勝てるとでも?」
「やってやろうじゃない!コメント欄の皆どう思う?」
[どっちも下手そう] [二人共お祭りのくじで全財産はたいて何も出ずに泣くタイプ] [FPSド下手な二人が何か言ってるぞ]
コメ欄がすごい辛辣で思わず笑ってしまった。
「アリス・・・、花びらの間でどんな扱い受けてるんだ・・・。同情するぞ」
「そっちこそ・・・、服部組に一体どういう教育させてるの・・・?」
辛辣すぎるコメ欄にダメージを受けているようだ、二人とも痛み分けと言ったところだろうか。
「まあまあ二人共落ち着きましょうね。ここは後で皆で行って競えばいい話ですからね〜」
「そっそうですよ。喧嘩はダメです!」
『はーい・・・』
暴走した二人をもう二人が止める、二期生らしい見ていてどこか安心感がある。
「それじゃあ後でTwitterに景品あげて一番少ない人は罰ゲームね!」
「良いよ。アリスに激苦茶を飲ませてあげるよ」
「まあそれぐらいなら良いでしょう」
何か俺も連れ出されそうだな・・・。
一抹の不安が残ったが、ゲリラ配信は順調に進み終了した。
「あきくん〜、いる〜?」
ゲリラ配信が終わり、部屋でその切り抜きを作っていると俺の部屋をノックする音と共に秋津さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。
「何だよ・・・、もしかして配信で言ってたこと本当にするのか?」
「そうだよ!外で皆待ってるから早く行こう!旅館が下駄貸してくれるらしいから浴衣のままで大丈夫だよ!」
「ああ、分かった。三分ぐらいしたら出るから先行っててくれ」
「待ってるからね〜」
秋津さんに言われ急いでスマートフォンと財布以外の貴重品を金庫に入れ、部屋を出る。
「きゃっ!」
「あっすみません・・・、てっ茜か?」
「びっくりした・・・、来るの遅いから来たけど丁度だったね」
部屋から出て廊下に居た茜にぶつかりそうになったが何とか回避できた。
「所でさ・・・、アリスの事なんだけどさ・・・。あきはアリスの事をどう思ってるの?」
唐突に茜が真剣な表情であいつの事を聞いてきた。
「なっ何なんだよいきなり・・・。あいつの事か、そんなの相棒だと思ってる」
「相棒ね・・・。アリスにあんな危険な目に合わせたくせに?」
「は・・・?」
茜の声がワントーン低くなり目つきも鋭くなった。茜のいきなりの豹変に次の言葉が出てこない。
「アリスが追い詰められている時に無理やり問題に介入してアリスのこと泣かしたんでしょ!ちょっとアリスと話したけど大体事情は察せたよ。私だってアリスの苦しい姿を見てきた。それなのにどうして・・・
?どうしてあんたみたいな切り抜き師ごときがアリスの問題に介入したの・・・?」
「おい・・・、ちょっと待てよ・・・」
我に返り言葉を出そうとするが茜に遮られる。
「私はあんたのこと認めないから。あんたみたいな部外者が私達の事をかき回さないで」
そう言い残し茜はその場を後にした。
その場には静寂に包まれた空間と俺が残された。
どうも!進研模試で国語偏差値39でした490です。
はは・・・、信じられないだろう?こんなやつが小説書いてるんだぜ・・・?小説書いてないで模試対策してた方が良いんじゃないかと思う今日このごろです・・・。勉強しないとな・・・。
それは兎も角アーカイブも残らないゲリラ配信を読者様はどう思いますか?私の場合Twitterでその存在を知り推しの配信を見れなかったことに発狂するのですがね・・・。
物語では遂に話が動きます。ぜひ楽しみにしてください。
この物語を読んでる全ての人に最大限の感謝を。