草津旅行
「うわぁー」
もうもうと湯気が煙る湯畑を目の前にして、彼女たちは感嘆の声を上げていた。
駅を降りた後、先に行っていた彼女たちのマネージャーと合流しバスに揺られ草津の観光名所、湯畑に来ている。
「どこ行こっか?」
この慰安旅行は特に目的は定まっておらず、宿だけが決まっている状況だ。
「皆!こことかどう?」
秋津さんがスマホ画面を差し出して見せてきた。画面を見てみると、お風呂に入り柚子を頭に乗っけているカピパラの姿があった。
「良いねそこ!」
「カピパラとか可愛いですね。行ってみましょうか」
「わ・・・私も行ってみたいです」
他三人も好意的な反応もあり、俺達はそのカピパラがいる動物園に向かうことになった。
十分程歩いた所にその動物園はあった。見た目は古き良き、小さい動物園だ。さっきスマホでこの動物園を調べてみると、どうやら展示室がドーム状になっており、そこに様々な熱帯動物がいるようだ。しかもそのドームは草津温泉の熱で温められている。受付でチケットを買い、中に入るとコブラの骨の標本や蝶の羽が使われた絵などが特に法則無く飾られており、なかなかにカオスな様相になっている。
そして小さな展示室をでると目の前に猿山が見えてきた。俺たちが近くに寄ると猿たちが上目遣いで俺たちを見つめている。
「あ、もしかして餌が欲しいのですかね?」
百合草さんが目を向けた先を見ると、『猿の餌200円』と書かれ机の上にフルーツが入ったバスケットが置いてある。
「せっかくだし餌上げてみようよ!」
「いっ良いですね」
「そうだね!なんか猿の視線が痛いからね・・・」
そうして俺たちはそれぞれ餌を持ち、猿達に餌を投げ入れ初めた。
「あき君!あき君!あの猿凄い勢いで跳んでるよ!」
「何か鬼気迫る物を感じるな・・・。猿界隈も大変そうだな・・・」
秋津さんがまるで子供のようにはしゃいでいる。猿山の方を見てみると、確かに餌が貰えるのを喜んでいるのか尋常なほどに興奮して跳び回っている猿がいた。他の猿にも目を向けると、二足で立ち祈るように両手を組んで俺たちに餌を乞うような仕草を見せる猿もおり十人十色ならぬ十猿十色だ。
「まああき君は猿以下な単純な思考してるからあそこにいてもすぐに他の猿に餌を取られそうだけどね」
「おい誰が猿以下の思考だって?俺だってもう少し上手く生活出来るわ」
「あの猿を見ても同じこと言える?」
バスケットに入っているリンゴを投げ込むと少し俺に似ている猿がそのリンゴを取っていった。
「何だよ?別にあの猿だってしっかりと餌貰えてるじゃねぇか」
「まだ続きがあるから見てみな?」
そう言われて改めて俺似の猿を目で追っていると、猿山の端の方に行き座ってリンゴを食べようとしていた。
「あっ!」
リンゴを食べようとした瞬間別の猿にリンゴを掠め取ってしまった。
「いや〜、世知辛い世の中だね〜」
「不服だ・・・」
餌をやり終わり猿山を後にすると、この動物園の目玉のドーム展示場についた。中に入ると室温と湿度が高く周りには熱帯地方に群生している草木が植えてあり、さながら熱帯雨林にような雰囲気を醸し出している。
まず最初に目に入るのは成人男性三人分程の体長はありそうなワニが三匹悠々と泳いでおり、上から覗ているだけだが迫力は満点だ。
他にも微動だにしないハシビロコウやカラフル羽を持っている鳥たち、熱帯に群生している花など様々な動植物が展示されている。
様々な展示物を見ていき遂に俺たちは念願のものにたどり着いた。
十匹程度のカピバラが温泉に気持ち良さそうに浸かってところを見ているとこっちも癒されてくる。
「わぁ…」
立案者の鹿野さんもカピバラの姿に魅了されているのか感嘆の声が少し漏れ、目の前のカピバラと同じように気持ちよさそうな顔をしていて見ている。
他の面々も同じような気持ちだろうか、皆カピバラの入浴姿に魅了されていた。
「可愛いね…、何だかこっちまで癒されるね…」
「それな…」
一通り動物園を満喫した。その後俺たちは草津の観光名所を巡り、気づいたら旅館のチェックインの一五時を回っていた。
チェックインはマネージャ達が済ませている間、二期生の皆は旅館の前にいる看板猫と戯れている。
「え?良いんですか?」
「こちらの都合で来てもらった訳ですし構いません。それに女子部屋に入れられるの酷でしょう?」
「ですね、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
さっきチェックインを済ませてくれたマネージャーの一人が俺の部屋割について、一人だけ男なのを察してくれ一人部屋を用意してくれた。正直二期生とこうして旅行を共に出来ているだけでも気が狂いそうになるのを必死に堪えているのだが、一緒の部屋にいたら何をしでかすのか分からないからこれは助かる。まあ当たり前と言ったら当たり前の処置なのだが。
「夕食は十八時ですのでそれまでに新春の間へ来てください。そこで全員で夕食を取りますので」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
「ふ〜」
部屋の鍵を渡され、すぐさま部屋に入ると俺はそこらへんに荷物をほっぽり投げ座布団に腰を下ろした。
草津に着いてから歩きっぱなしで観光中はあまり気にならなかったが座布団に座ると足に溜まっていた乳酸が排出されていくのを感じる。
机においてあるお茶菓子とお茶で一服した後、そこら辺にほっぽり投げたリュックの中から編集用のノートパソコンとマウスを取り出し編集作業を始める。
まだ今日の分の切り抜き動画が出来ていないのだ。旅先でも動画編集かと思うが約一年毎日スキマ時間で動画編集をしていると時間を持て余す時に動画編集をしなければ落ち着かない体になってしまった。
「温泉にでも入るか・・・」
一時間位が経ち動画編集に一区切りがつき、大きく伸びをした。
折角草津にも来て一度も温泉に入らないのはどうも味気ない、この温泉も草津に地に建っているので例に漏れず温泉旅館だ。効能もすごく、出発前に調べてみた範囲だと神経痛、筋肉痛、関節痛、冷え性、疲労回復など他にも様々な効能がある。
早速浴衣に着替え入浴セットを持ち旅館の大浴場に向かった。
こんにちは490です。
この話から草津旅行編になります。草津は私が小学生の時に一度連れて行ったきりで微かな記憶を手繰り寄せて書いているのですが温泉・・・良いですよね・・・。
草津旅行とか言いながら旅行描写が動物園だけなのはご愛嬌と言うことで・・・。
次回は意外な人物が主人公に立ちはだかります。次回も乞うご期待ください。
この物語を読んでる人に最大限の感謝を。