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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2021『かくれんぼ』

鬼と遊ぶ村

作者: 小畠由起子

「ねぇ、お姉ちゃん、ちゃんと押さえててよ、絶対だよ!」


 イノがサドルをしっかりつかんで、ふるえる声でいいました。アリナは安心させるようにサドルを押さえて答えます。


「大丈夫よ、ちゃんと押さえてるわ。まずはほら、バランスを取る練習よ。さ、手を離してごらんなさい」


 しかし、アリナにいわれても、イノはなかなか手を離すことができません。一輪車のサドルをぎゅっとつかんだまま、とうとう泣き出してしまいました。


「イノ、ほら泣かないで。ね、最初は誰だって怖いわよ。ちょっとお姉ちゃん無理させちゃったわね。じゃあ待ってて、最初にお姉ちゃんがお手本見せるから」


 泣きじゃくるイノをサドルから降ろして、アリナが一輪車に乗ろうとしたそのときです。ドタドタドタと足音が聞こえてきたかと思うと、次にバシンッという痛そうな音が響いたのです。


「キャアッ! ……うわぁぁぁんっ!」


 泣き出すイノを、男の子たちがにやにやしながらはやし立てます。


「ターッチ! 次はお前がオニだぜ!」

「はぁ? なにいってんのよ、ていうかなにすんの! わたしたちおにごっこなんてしてないじゃないの!」


 アリナがこぶしを振り上げてどなりますが、もう男の子たちは完全におにごっこのモードです。ギャハハハとバカ笑いしながら、全速力でかけていきます。


「なによあの子たち! 腹立つわね、待ちなさいよ!」

「あっ、お姉ちゃん、待って!」


 いきり立つアリナを、イノが急いで引き止めます。ふりかえるアリナに、イノが手を出しました。


「わたしが、タッチしないと……」

「なにいってんのよ、あんな悪ガキどもと遊ぶ必要ないわ! お姉ちゃんがとっ捕まえてくるから、イノはここで待っていてちょうだい!」


 それだけいうと、アリナはイノが止めるのも聞かずに、すごい勢いで男の子たちを追いかけていったのです。あとに残されたイノは、うるんだひとみでアリナの背中をじっと見つめるだけでした。




「ほらっ、待ちなさいよ、あとちょっとよ、絶対許さないんだから!」


 男の子たちも必死で走っていましたが、アリナはそれ以上の剣幕で追いかけまわします。それこそ本物の鬼のように、男の子たちを追いかけまわしていくのです。男の子たちも、最初はからかい半分に逃げていたのですが、今ではアリナが恐ろしく、本当に鬼に追われているかのように半べそかきながら逃げているのでした。


「ほらぁっ、捕まえたら、ただじゃおかない」

「ゴォォォォォン……」


 突然すさまじい鐘の音が鳴り響き、男の子たちは思わず足を止めました。それにつられてアリナも走るのをやめます。


「……なに、今の?」

「なにって、遊びの合図だろ。次はかくれんぼか」

「ちょっと待って、遊びの合図ってどういうことよ?」

「どういうことって……あ、もしかしてお前、この村には引っ越してきたばっかりか?」


 男の子が納得したようにうなずきました。その間にも、不気味な鐘の音は「ゴォォォォォン……ゴォォォォォン……」と、鳴り続けます。その音に気味の悪さを感じながらも、アリナは勝気に答えます。


「それがどうしたっていうのよ?」

「いや、よそ者は知らないだろうなぁって思ってさ。ま、いいよ。悪いことはいわないから、おれたちといっしょにかくれんぼしたほうがいいぜ。お前がおにやっていいからさ」


 差し出された男の子の手を、アリナは乱暴に振り払いました。


「いてっ!」

「なにが、お前がおにやっていいからさ、よ! だいたいわたしたちが一輪車で遊んでたのに、そっちが勝手におにごっこに巻きこんだんじゃないの! それで、飽きたらかくれんぼ? そんなのダメに決まってるじゃないの! とにかくわたし帰るからね! 二度とわたしとイノに話しかけないでちょうだい!」


 肩をいからせて男の子たちに背を向けると、そのままアリナはけむりのように消えてしまいました。男の子たちは顔を見合わせ、それから神妙なおももちでつぶやきます。


「……あーあ、だからいったのに。おれたちといっしょにかくれんぼしようって。この村では、なんの遊びをするか決めるのは鬼なんだから。鬼のいうことには逆らったらいけないのに」

「まぁ、しかたないだろ。それにどうせまたよそ者も入ってくるさ。それより、じゃあ誰がおにやる?」

「おれがするよ。お前ら隠れな」

「あぁ」


 男の子たちは、別段気にした様子もなく、かくれんぼをし始めます。まるでアリナなんてはじめっからいなかったかのように、知らんぷりしてかくれんぼをしていき、一人、また一人と見つかっていきます。


「……でもよ、いったい誰が鬼なんだろうな?」

「はぁ?」


 見つかった男の子たちが、小声でおしゃべりしています。鐘の音はまだ聞こえてきません。


「さぁ、おれは知らないぜ。ていうか誰も知らないだろ、そんなこと」

「そりゃそうか。でもさ、誰も見たことないってのはおかしいだろ。鬼だって、この村のどこかに住んでいるはずだろ」

「まぁな。でも、そんな危ない詮索したって意味ないだろ。おれたちは鬼のいわれた通り、遊びを続ければいいんだ。……消えたくなかったらさ」


 身ぶるいすると、男の子たちはそれっきり黙ってしまいました。再び「ゴォォォォォン……」と鐘の音が鳴り響きます。




「……あーあ、またお姉ちゃんいなくなっちゃった。新しいお姉ちゃんをさらってこないとね」

 一輪車をバキ、バリリとほおばりながら、イノは満面の笑顔でつぶやきました。

お読みくださいましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無邪気で遊び好きな鬼に支配された村。怖いですね。イノの、『お姉ちゃんがいなくなってもまた替わりを探せばいい』という考え方が、おもちゃをなくしてしまった子どもみたいだなと思いました。
[良い点] 最後の結末に鳥肌が立ちました。 良いですね……一輪車を咀嚼するシーンを想像すると、その悍ましさに快感を覚えました。
[良い点] か弱いと思っていたイノの印象が最後に……((((;゜Д゜))))普通の姉弟だと思っていたのに! [気になる点] “鬼”の望みってなんなのでしょうね。お姉ちゃんは欲しい、でも指示に一度でも従…
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