表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/383

91.六郎と城下視察 1

「雪村さまぁ、六郎がまた「今日も俺が行く」って待ち(かま)えてますぅ」


 地図から顔を上げて、私と桜井くんは顔を見合わせた。ここ数日、こんな日が続いている。

 根津子が来てスイッチが入った桜井くんが、『桜姫』に戻ってふふと笑った。


「ご家老様、張り切ってらっしゃるのね」

「そうですね。頼りになる家老です」

「あたしたちには無理しなくていいですよ雪村さまぁ。ね? 桜姫?」


『言ってる事は間違ってないけど、言いたい事はそれじゃない』って台詞を言うと、さらりと桜姫を巻き込んで、根津子が突っ込んできた。

 こうなっては仕方がない。


「待たせては怒らせるので、行ってきますね」


 薄塩水入りの竹筒を根津子から受け取り、私は重い腰を上げた。



 ***************                ***************


 残暑厳しい日が続いていて、今日も夏みたいに暑い。

 夏向けに薄く織られた小袖に、汗を拭く手拭(てぬぐ)いを袴帯に下げて、六郎と一緒に外に出た。六郎は形から入るタイプなのか、濃紺の小袖に肩衣(かたぎぬ)まで付けている。


「六郎、暑くないの?」

「立場というものがあるでしょう」


 ツンツン返されたけど、顔が赤くて無理をしているのが丸わかりだ。小介は、ラフな小袖一枚で『城代の振り』をしているけど。それは知っているのかな。

 そもそも小介と一緒じゃないなら、こんな炎天下に出かける必要もないんだけど。


 ふと周囲を見渡すと、右手に深緑の森が広がり、その奥は(がけ)のような高台になっていた。さらさらと音がするのは、近くに小川でも流れているんだろうか。


 風がないせいで いつも以上に蒸し暑い。



***************                *************** 


「雪村様は今まで城下を(めぐ)って、何を感じられましたか?」


 しばらく黙って歩いていると、そっぽを向いたまま六郎が淡々と聞いてきた。

 相変わらず暑いねって話ではないよね、私はちょっと考えてから答える。


「ここは米より野菜の栽培が多いね。高台(たかだい)が多くて降水量が少ないせいかな。米の栽培には、ちょっと不向きな感じがする」

「だとしたら?」

「水利の開削(かいさく)が必要だと思う。利根川か山からの湧き水を村に引き込むような……その場合は普請役(ふしんえき)を求めないと駄目だろうが、ここは場所柄、戦が多い。私達はここに来たばかりだし、もう少し情勢が安定して、信頼を得てからの方がいいんじゃないかと思う」

「『信頼を得てから』ではありません。普請(ふしん)を通して『信頼を得る』んです。その為には?」

「領民の(えき)になる普請をする。結局、人は()で動くから。その普請が自分たちの為にならないと、『信頼』は得られず『不満』になる」


 ちらりと六郎がこちらに目を向け、また目を()らす。

 とりあえず、怒られない程度には答えられたかな?

 実はこれは、小介と城下を回っていた時に気付いた事だ。領民の女の子たちが愚痴(ぐち)っていたんだよね。雨が少ないから、米の収穫量も少ないって。

 だらだらナンパばかりしてると思ったら、意外と小介は、領民の生の声を拾うのが上手い。


 でも水利の開削ってどうしたらいいんだろう? これが越後なら、神龍を使役するだけで解決なんだけど……

 水を(つかさど)る霊獣の使役(しえき)でいいなら、僧侶や陰陽師がその役割を果たせそう?

 確かゲーム中では富豊秀好(とみとよひでよし)が、『みんなが神力の恩恵を得られる 豊かな治世』を目指していたって設定だった。

 それなら、その手は使えるって事に……


 そこまで考えて、私は首を振って考えるのを止めた。あまり変わった政策をとると、最終的にここを治める事になる兄上が困る。変なことは出来ない。

 それでなくとも今、この世界で力を持っている徳山家靖(とくやまいえやす)は、『人の世は人の手で』が信条で、神獣を使役する大名を目の(かたき)にしているんだから。

 

 前に「沼田は東条に取られる」って言ったけど、現世の歴史では北条氏に取られた後、小田原征伐後に真田氏に戻されるんだよね。だから高確率で、こっちの世界でもそうなるような気がする。

 だから

『小田原征伐が発生する』なら沼田城-上田城間の軍備をメインに。

『発生しない』なら民政をメインに開発したいけど、そこがどうにも判断できない。


 ゲームで『小田原征伐』が発生していたら確定だったけれど、基本『カオス戦国』は、桜姫の恋愛に関係ないところはスルーされるからなぁ。



 考え事をしていたせいで、六郎の口数が極端(きょくたん)に少なくなった事に、私は気付いていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ