表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/383

9.兼継再会


「雪村兄ちゃん、竹とんぼが壊れちゃったよ。また作って!」

「作り方を教えただろう? お前がしっかりと覚えないと、小さな子たちに作ってやれないぞ」

「俺が作っても、兄ちゃんのみたいに飛ばないよ」


 今日は客が来るからまた今度な。そう言って頭を撫でると、子供たちは聞き分けて駆け出していく。

 それを見ていた桜姫が、控えめに微笑んだ。

 子供たちを見送る眼差しも優しげだ。


「雪村は子供が好きなのね」

「はい。いずれあの子達も大人になるでしょう。このような時代ではありますが、せめて今は、子供らしい時間が過ごせればと思っております」


 私も微笑み返して模範解答をする。

 あまり好感度が上がりそうな事は言いたくないけれど、私の中の『雪村』が本当にそう思っているのだから仕方がない。


 雪村、いい奴だな……と、私の雪村への好感度も上がりそうですよ。



+++


『カオス戦国』は乙女ゲームだから、イケメンがたくさん出てくる。

 そしてプレイしていると、やっぱり「推し」が出来る。

 雪村を褒めた後でアレですが、私の「推し」は加賀清雅(かがきよまさ)という肥後(ひご)の大名だ。


 理由は声が好きだから。


 でも清雅は攻略対象じゃないし、雪村の天敵みたいなキャラなんだよね。

【虎狩り】と【治癒】のスキル持ちだから、炎虎を使う雪村とは相性が悪い。

 そしてHPが減ると自力で回復する、やたらと厄介な敵だ。


 あれ? 他人事みたいに考えていたけど、今は私が『雪村』だから、清雅と戦う事になったら苦労するのは私って事か。

 推しキャラには会いたいけど、戦いたくないなぁ。

 武断派だから強いんだよね、清雅。


 そんな事を考えながら子供たちを見送っていると、ふと視線に気が付いた。

 街道に、馬の手綱をとった若い男の人が立っている。


 すらりとした長身、整った顔立ち。センターパートの漆黒の前髪がさらりと揺れて、涼しげな瞳がこちらを見ている。


 直枝兼継(なおえだかねつぐ)だ。


「兼継殿!」


 ぶんぶんと手を振りかけて、慌てて手を上げるだけに留める。

 私が思っているよりずっと、『雪村』は兼継に会えたのを喜んでいるみたいだ。


 直枝兼継は、越後(えちご)大名・上森(うえもり)家の執政(しっせい)

 頭脳明晰(ずのうめいせき)容姿端麗(ようしたんれい)、主君の上森影勝(うえもりかげかつ)には絶対服従。

 実は愛染明王(あいぜんみょうおう)憑依(ひょうい)しているけれど、前当主の上森剣神(うえもりけんしん)が『毘沙門天(びしゃもんてん)化身(けしん)』を自称して厨二扱いされていたので、正体を隠している……というキャラ設定だ。


 ゲーム中は全然そんな事を匂わせてなくて、エンディング近くになっていきなり「実は……」と言い出したので「愛染明王だと? それならゲーム中でその設定を生かせよ!」「愛染明王のくせに戦に負けるなよ!」とプレイヤーの総ツッコミを受けたキャラでもある。


 まあそれは置いておいて。

 雪村は十~十五歳までの五年間、人質として越後に来ていて、その時の世話役が兼継だった。

 それを知った信倖が「雪村(おとうと)をよろしく」と、兼継宛てに(ふみ)を出した事が切っ掛けで二人は知り合った、とゲーム中で説明されている。


 人質といっても可愛がられていたようで、信倖よりも雪村の方が霊力が高いのは、兼継に鍛えられたからだそうだ。

 ただ、雪村は「いずれ上森に仕官したい」と思っていたのに、ある日突然、真木に戻されてしまったのが引っかかっているみたい。


 いつも雪村にはお世話になっているし、教えてあげられるならそうしたいけど。

 生憎そこらへんはゲームでも触れられていない。


 おっと、そんな事を考えている場合じゃなかった。姫を兼継に紹介しなきゃ。


「姫、こちらへ」


 私は姫が転ばないように、小さな手を取った。



 ***************                *************** 


 そう言えば、桜姫を勝手に越後から連れ出してしまった事を、まだきちんと謝罪していなかった。

 ひととおり自己紹介が終わった所で、私は兼継に頭を下げた。


「上森家に伺い、許可を取るべきだったのですが、信厳公の容態が悪く、気が()いておりました。不義理を働き申し訳ありません」

「いや。当時はこちらも立て込んでいてな。真木に保護されて逆に助かった。……信厳公は間に合ったのか?」

「はい」


 立て込んでいた件とは『御館(おたて)の乱』だろうか。

 桜姫が見つかった直後の上森家は、後継者争いが起こっていた時期だ。


 本来の『御館の乱』は、謙信が後継者をはっきりと決めずに亡くなった事で勃発した、二人の養子の後継争いのこと。

 結局、甥の景勝(かげかつ)が北条から来た景虎(かげとら)に勝って収束するけど、上杉弱体のきっかけになった戦のはず。

 こっちの世界ではどうなったのか気になって、私は探りを入れてみた。


「影勝様と陰虎様は……?」

大事(だいじ)ない。越後の神龍(れいじゅう)が影勝様を選ばれた。それと前後して相模では、氏靖(うじやす)殿の遺言書が見つかってな。『剣神公亡き後は陰虎様を相模に戻し、霊獣と家督(かとく)を継がせるように』との内容だった。今は相模に戻られている」


 相模(さがみ)大名・東条氏靖(とうじょううじやす)公は信厳公や剣神公と同世代で、霊獣『獅子』を使役する “相模(さがみ)獅子(しし)”と呼ばれた名武将だ。

 どうやら息子たちの中で、一番霊力が高かった陰虎様を「獅子を使役(しえき)出来る程度に育てて欲しい」と剣神公のところへ養子に出した、という事らしい。


 御館の乱も日本史と結末が違うのか。

『霊獣が居る世界』ってだけで、こうも変わるものなのかなぁ。


 霊獣は(あるじ)を選ぶから、たとえ跡取りでも霊力が高くなければ従わない。

 信厳の息子や信倖の霊力では従える事が出来なかった。けれど雪村に『炎虎』が従ったから「真木に霊獣下賜」の流れになったそうだけど、兼継に鍛えられていなければ、炎虎は真木に下賜されなかったかも知れないのか。

 それを考えると、雪村は兼継に頭が上がらないなあ。


 ……と、そこまで考えて私は我に返った。

 しまった。またうっかり考え込んでしまった。


 慌てて顔を上げると、兼継が真剣な表情で桜姫を見つめていて、桜姫がきょとんとした可愛らしい顔で首を傾げている。


 イケメンが真剣な顔をすると迫力があるな。

 桜姫は、コレは怖くないんだろうか。


 とりあえずここは兼継と桜姫、両方にお互いのいいとこを売り込んでおくべき?

 今後の事も考えて。

 桜姫については私もよく解らんので、とりあえず桜姫に兼継を売り込んでおこうかな。

 山奥の尼寺とはいえ越後に居たんだから、『義兄(あに)上の右腕で 越後の執政(しっせい)』って事くらいは知っているだろう。


「桜姫、兼継殿はとても頼りになる方ですよ。霊力も高くてお強いですし、わからない事など無いのではと思うほど博識です」

「そうなの? 素敵ね」


 ぱっと花が(ほころ)ぶような笑顔で、桜姫が兼継を見つめている。

 これが館正宗(たてまさむね)なら「いやあそれほどでも。もっと褒めろ」くらい言ってきそうなところだけど、兼継は真面目だからそういう事は言わない。


 そうだ。真面目だから、あまり序盤で色ボケしたような選択肢を選ぶと、容赦なく好感度が下がるんだった!


 にこにこ笑っている桜姫に反比例するように、兼継の表情が胡散臭いものを見る目に変わっていく。

 まずい。初見の相手にこの態度は珍しいぞ。


 よし、売り込むのはこれくらいにしておこう。

 何気(なにげ)に状況がヤバい



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ