80.兼継・好感度稼ぎイベント
「すごい! 越後にはこんなに綺麗なところがあるのね!」
桜姫が嬉しそうに満開に咲いた純白の花弁を見上げている。
盛りを過ぎた夏桜は、風が吹くたびに吹雪のような花びらを散らしていた。
夏桜は、春の桜と違って色が白い。
透けそうな純白の花びらは光が舞っているみたいで、本当に綺麗だ。
「喜んでいただけたなら何より。これは越後の山中でしか見られませんから」
兼継殿が穏やかに微笑んでいて、私はちょっとほっとした。
……昨日お願いした時は、本当に嫌そうだったから。
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「私は忙しい。夏桜が見たいのなら、土地の者に案内させよう。明日の朝四つあたりにでも迎えに行かせる」
兼継殿の返事はにべもない。
「桜姫が夏桜を見たいって言っているから 連れて行って欲しい」
そうお願いしたら、そりゃあもう、けんもほろろに断られた。
兼継殿は「雪村は桜姫が好き」と思っているから、雪村に遠慮しているのかも知れない。
でも本当にそうじゃないんですよ。前にも言ったのになあ。
仕方がないので、私は少し説得の方向を変える事にした。
モブ案内役の好感度稼ぎしている場合ではありません、貴方ですよ貴方。
「兼継殿、私は今このような身体ですし、何かあった時に、姫をお守りし切れる自信がありません。案内役の方もとなれば尚更です」
だから『男』で『武将』の貴方に案内を頼みたいんですよ。
しかし兼継殿は、こめかみを押さえて大きな溜め息をついた。
「越後領内に怨霊は出ないぞ。だがお前がそう言うのであれば仕方があるまい。体調が戻るまでは付き添おう」
いや、私に付き添ってくれと言っている訳では……
と、言いたかったのに「その話はもう終わり」と言わんばかりに、そっぽを向かれてしまったので、それ以上は言えなくなった。
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そんな感じだったから、結局私もついてくる事になったんだけど、桜姫と兼継殿が穏やかにやりとりしているのを見て、心底ほっとした。
ではここは若い者ふたりに任せて、邪魔者は退散するとしますかのう。
「途中に茶屋がありましたよね。せっかくですからお花見しましょう。団子を買ってきます」
私はふたりの返事を待たずに、急いでその場から離れた。
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のんびりと時間を潰して お団子を買って戻ったら、兼継殿と桜姫が見つめ合って立っていた。
雪みたいに降り注ぐ花びらと相まって、美男美女は絵になるなぁ。
……死ぬほど空気が凍っているけど。
「ど、どうしたんですか!?」
慌てて駆け寄ると、桜姫と兼継殿が 同時に振り返って微笑んだ。
「別に?」
何があったのかは知らないし、聞くのが怖いから聞けないけど。
私は二人きりにした事を とても後悔した。
恋愛イベント、進められるのかな、このふたり……。




