54.雪村、富豊に仕官するってよ
真木の邸に戻った私は、さっそく兄上の部屋に足を運んだ。
「兄上、ただいま戻りました」
「おかえり。あれ? 桜姫は一緒じゃないんだ?」
「はい、その事なのですが」
私は影勝様との顛末を、兄上に詳しく話した。
そして先日は聞きそびれたのであろう事柄を確認する。
「兄上は上洛の予定があるのですか?」
「うん、僕だけじゃなく雪村もね」
「私も?」
影勝様も、それっぽい事は言っていたけど、私が上方に呼ばれる理由が解らないから聞き違ったのかと思っていた。
「そうか、ちゃんと話してなかったね」
不思議そうな私を見て、兄上が事情を説明してくれる。
「今回の討伐が終わったら、真木は豊富に臣従することになっているんだよ。これは前に話したよね? それって結局は『桜姫を守護する真木』を取り込みたいって事だから、信厳公から炎虎を下賜されている雪村も臣従しろって事なんだよ。それで一緒に呼ばれてるってわけ」
ああ、そういう事か。
大阪の花見で桜姫が神力を発現した後、美成殿が即座に手をまわして、あちこちから富豊に進言させた。
「桜姫を娶って取り込むより、臣従する上森家の姫という立場に据え置いた方が『神子より富豊の方が立場が上』という形になる」と。
プライドが高い拠殿はそれで納得したけれど、今度は徳山が「姫を守護する役目を、武隈の一家臣が担うのは分不相応。徳山家に任せて欲しい」とごね出した。
徳山を警戒している美成殿は、「武隈の一家臣という立場が不相応というなら、真木を富豊に臣従させてはどうか。真木は武隈が使役していた霊獣を従えている。神子姫を守護する能力ならば十分に備えている」と富豊に進言した。
それに影勝様も口添えしてくれたので「真木の豊富への臣従」と「桜姫守護の任は真木家が担う」事が、正式に承認された形になったそうだ。
「霊獣を使役する真木家」ってところがポイントなら納得いく。でも。
「炎虎は真木家に下賜された霊獣です。ほむらは、兄上に従っている事にした方が良いのではないでしょうか?」
そうなの。雪村ばっかりほむらを使役っているから勘違いされそうだけど、霊獣は本来『当主』に従うもの。
炎虎が真木に従った経緯は特殊で、兄上の霊力では炎虎を従えるには少し足りなかったけど、雪村の霊力が高いから「雪村に」従っているって経緯がある。
そして本来、霊獣は『当主』に従うものだから、真木家当主の兄上にも、ほむらは従っている。
でもこの経緯は武隈家しか知らない事だから、いっそ兄上が炎虎を『使役』しているって、富豊には思わせておいた方がいいんじゃないかな。
そう思って進言したけど、兄上は「ふだん使役してない僕じゃ、何かあった時にボロがでるからね。最初から雪村の事を公にしておいた方がいいよ」とあっさり首を横に振った。
桜姫が神力を発現したきっかけが「雪村を馬鹿にされたから」だと聞いた時は、仕官してない事に少し落ち込んだりもしたけれど。
あれから『雪村』と籠城戦を仕切ったり、城下の子供たちと親交を深めたりしていたら、こうして兄上を手助けしながら、真木領のために尽力するのも悪くないなと思い始めている。
だから今となっては「豊富に仕官しろ」と言われても、あまり嬉しくない。
逆に「富豊への仕官がなければ『大阪夏の陣』は回避できるんじゃないか?」と思っているくらいだ。
そもそもゲームで『雪村が豊富に仕官する』エピソードなんてあったっけ?
基本、桜姫の恋愛に関係ない部分はスルーだからなぁ。『カオス戦国』って。




