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51.信倖帰還

「兄上、お帰りなさい」

「ただいま雪村。ずいぶん久し振りな気がするね」

「ここにお戻りになるのは、大阪の花見以来です。もう夏になりますよ」


 (いくさ)の戦後処理が済み、兄上が上田に戻ってきた。

 自分でも驚くほど会えた事が嬉しくて、私は馬上で微笑(ほほえ)む信倖に笑いかけた。


 こっちの世界に転生して、雪村の身体に間借(まが)りするようになって。

 私の意識が雪村()りになってきたのか、信倖は兄として親しみを感じるし、兼継や美成はゲームの攻略対象キャラじゃなく、友人って意識が強い。

 うん、友人……に近い先輩っていうか。

 でもやっぱり女の意識も残っているから、桜姫は可愛いけど、友人としか思えない。


 こっちの世界は戦があって厳しいけれど、イケメンな兄と友人ができたし、この世界で元気に生きて行こうと思う。


 現世にいるお父さん、お母さん。

 雪緒はこの世界で、『雪村』として生きていきます。


 ……そのためにも、安泰(あんたい)なエンディングに行きつきたいよね。

 こっちの世界でも早々に死ぬなんてのは勘弁して欲しい。



 ***************                ***************


「は? 兄上にお嫁さんですか?」


 思わず()頓狂(とんきょう)な声をあげてしまい、私はあわてて口を押えた。

 兄上が苦笑しながら茶を(すす)る。


「今はまだ、その様な事は考えられない、とお断りしたけれどね。そもそも父上の喪もまだ明けていないし」

 

 今は兄上の部屋で、沼田城攻略時の事の顛末(てんまつ)を聞いていたところなんだけど。

 私がこっちであれこれ大変だった時に、兄上はお嫁さんの世話をされていたのか……


 とりあえずそれは置いておいて。


 兄上の話によると、私が兼継殿から話を聞いた時には(すで)に、兄上は岩櫃城(いわびつじょう)に入って兵をまとめていたそうだ。


「上森の援軍(えんぐん)が間に合わぬ時は、上田城の後詰(ごづめ)として出てくれ」


 やっぱり兼継殿からは、そう言われていたそうだけど、沼田の動きがきな(くさ)くて、そっちに()かり()りになっていたらしい。


 (にせ)書状の策が上手く(はま)って、沼田城攻略は上手くいった。

 しかし和議(わぎ)を結ぶ前に、沼田軍は、攻めてきた徳山軍に蹂躙(じゅうりん)されてしまった。


 後で真木に降った沼田家臣によると、沼田城主は「武隈を見限り、徳山に臣従するなら悪いようにはしない」と調略(ちょうりゃく)を受けていて、それに(こた)えず武隈救援に向かったせいでこのような事になったのではないか、との事だった。

 そして戦後の処理もままならないうちに、徳山は怒涛(どとう)(ごと)く武隈の領地を切り取り、旧武隈家臣を次々と召し抱えていっている。


「カオス戦国」でも伊賀忍者と天界(てんかい)僧正を召し抱えているラスボス扱いだったけど、こっちの世界の徳山家も、やる事がえげつない。

 実際の戦国時代も、そんなものなんだろうけど。


 で、その時に沼田に攻めてきた徳山家臣・本間只勝(ほんまただかつ)殿が。

 戦の最中(さなか)に堂々と正門を開き、(くだ)った沼田兵を引き入れた決断力。

 単騎(たんき)、徳山勢を蹴散(けちら)らして、本間殿のところまで物申(ものもう)しに行った兄上の豪胆さを気に入った、って事らしい。


 兄上、ずいぶんカッコいいことしたんですね……


 あれ? 私は兄上に気付かれないように首を傾げた。


 ゲーム中でも兄上は、徳山家からお嫁さんを貰っている。

 そしてそれは、徳山家の養女になった『本間さんの娘』だからシナリオ通りだ。

 でもゲームでは、こんなに早く兄上の結婚話って出てたっけ?


 私が桜姫の相手に兼継殿を選んだのは、ゲームで唯一『雪村死亡が確定してないエンディング』だからっていうのが一番の理由だけど『他の二人のエンディングが微妙(びみょう)だから』って理由も結構大きい。

 ちなみに信倖ルートは、徳山からのお嫁さんが正室(せいしつ)で、桜姫は側室(そくしつ)にされる。

 いや、側室も奥さんには違いないけど一番じゃないのに……

 誰得(だれとく)なの? この設定。


 そこまで考えて、私は思い出した。

『カオス戦国』にはイベント発生期限がある。

 武隈滅亡までに恋愛イベントを「ひとつ以上」済ませていないと、以降のイベントが発生不可になるのだ。


 兼継殿は『花贈り』のイベントが起きていたけど、兄上はどうなんだ……?

 少なくとも美成殿は『自己紹介イベント』直後に越後へ遁走(とんそう)したから、イベントが起きている気がしない。

 予想外の展開で武隈滅亡が早まったせいで、とんでもない事になってないか?


「ああ、そういえば」


 もやもやと考えていたら、兄上がふと思い出した、って気軽さで伝えてきた。


「兼継が、話があるから越後(えちご)に来いって言ってたよ。「秋海棠の件で」って言っていたけど、何の話?」


 きた。


 私の中で、雪村が緊張している気配がする。

 私はお茶を一口飲んでから兄上に「わかりました」と返事をした。

 余裕ぶっこいた訳じゃない。そうしないと声が(かす)れそうだったから。


 そうだ。

 私にはまだ、最後の戦後処理が残っている。


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