48.異世界・川中島合戦8【地図あり】
今回も(区切るには短すぎるので)目線変更ありです。
~沼田城攻略戦2~
「なに? あれ……」
丘城の沼田城は見晴らしが良く、遠くまで見渡せる。
城門に攻め寄せた というより、城を落とされて慌てて戻って来た沼田兵の背後に、黒い津波のような軍勢が現れた。
その軍は一瞬の躊躇もなく、城門前の沼田兵に襲い掛かる。
後詰の兵にも見えるが、 信倖の知るところではない。
人波の合間に掲げられた「厭離穢土欣求浄土」の旗印、それは……
「徳山の旗印……」
信倖は茫然と呟いた。
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~上田城攻防戦2~
思った通り、多くはなかった抑えの兵の制圧を終え、私たちは山越えをして海津城へと向かっていた。
三浦和尚の物見、そして先行させていた戦物見からの報告によると、つい先刻 海津城が落ちた。
しかし、武隈本隊との戦はこれからだ。
追行していた武隈本隊から離れ、道を外れて妻女山に進路を取る。
薄らぎかけた霧越しに、千曲川を迂回して進軍する武隈本隊が見えた。
そして川のそばに布陣している 上森軍も。
ここから見下ろすと、まだ上森方の陣形が乱れているように見える。
千曲川の渡河ポイントになる雨宮の渡しは、麓の横田城が上森に押さえられている。それなら北側にある、広瀬の渡しを使うはずだ。
武隈本隊は、上森の陣形が整わないうちに 広瀬の渡しから渡河して、背後を突くつもりだろう。
それならこちらは妻女山を下り、雨宮の渡しを渡河して、つかず離れず武隈軍を追行する。
そして渡河が始まったら、武隈軍の側面を突こう。
そんな感じでどうでしょう? 私の中の『雪村』に囁くと
――では、ここからはお任せ下さい――
と応えが返った。
孫子には「敵が半分くらい渡河したタイミングで攻撃を仕掛けろ」と書かれていたけど、これは確か“川岸で迎え討つ場合”だ。
上森軍と挟撃するとしたら、どのタイミングで仕掛けるのが効果的なんだろう。
結局、書物で戦は出来ない。
ここから先は、『雪村』に任せるのがベストだ。
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~沼田城攻略戦3~
「真木に降る者は城内に入れ! でなくば斬り抜けろ!」
突然、背後から襲われ、混乱を極めた沼田兵が、我先にと城門を潜っていく。
その流れに逆らい、赤毛の馬が単騎、黒波を切り裂きながら、後方に掲げられた馬印へと疾駆した。
赤馬の周囲では、炎が噴き出たかのように鮮血の紅が散る。
前方に居た武者達が、慌てて道を開いた。
開かれた道のその先に、鹿角の兜に黒鎧、堂々たる体躯の武者が馬上に見える。
その前に立ち、信倖は静かに睨みつけた。
「これはどうした事ですか、本間殿」
「本」の赤文字に黒帯の旗印。
黒波の軍勢を率いていた武将は徳山家臣、本間只勝だった。
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「徳山は、上森の加勢に参ったまでの事。沼田城主は武隈方ゆえ」
取り付く島もない本間只勝に、信倖は凛と抗議する。
「沼田城主とは、和議の話し合いに臨むところでした。沼田の旗印が城を囲んでいる時点で おかしいと気づく筈。それを問答無用で襲うとは、武名名高い本間殿の所業とは思えません」
軍の後方に控えていた沼田城主の馬印は、真っ先に黒波に消えた。
今となっては和議も何もない。
まさかとは思うが、武隈の負けを見越して……いや、武隈の滅亡を知って、甲斐の所領を切り取っているのではないだろうか。
「真木殿、綺麗事で戦は出来ぬ。主家からいち早く離反した真木が、この先、路頭に迷うであろう旧武隈家臣の身の振り方を、とやかく言える筋合いは無かろう」
本意からの言葉ではないのだろう。
本間の口調には、淡々とした中に苦渋が滲んでいる。
路頭に迷う……? やはり知っている、克頼様の生死を。
もしかすると 上森よりも先に。
信倖は二の句が継げぬまま、馬上で本間を睨むしかなかった。
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~海津城撤退戦~
渡河の途中で上森と真木の挟撃を受けた武隈軍は、総崩れになった。
三々五々に 武隈の軍勢が戦場を離脱していく。
僅かな家臣と共に落ち延びていく克頼を、上森も真木も追わなかった。
家臣の裏切りにあった克頼が 自害して果てた。
その情報が上森と真木にもたらされたのは、徳山軍が沼田城に攻め寄せてから 三日後だった。
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大雑把な用語解説
後詰=援軍・予備軍
厭離穢土欣求浄土=煩悩まみれのこの世が嫌なので離れたいです。極楽浄土に行きたいですマジで。的な意味。なので徳山所領の三河あたりでは「写本」は禁書扱い。(今決めた)
旗印=戦場で目印として紋所や文字なんかを旗にしてつけたもの
抑えの兵=防備の兵。味方を支えるために敵の攻撃や侵攻を防ぐ
物見=敵情を探ったり見張りをしたりする人
忍物見=山野に隠れて敵情をさぐる役目。足軽が派遣される事が多いけど真木家では忍びを派遣中
布陣=戦いの陣を敷くこと
雨宮の渡し・広瀬の渡し=「鞭声粛粛夜過河」(べんせいしゅくしゅくよるかわをわたる)と碑が立っているので、馬で渡ったっぽい。
馬印=大将の乗馬の側に立てて、その所在を示す目印としたもの。
加勢=力を貸して助けること。
和議=和睦のための協議。
挟撃=はさみ打ち




