表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

374/383

374.異世界・関ケ原28 ~伏見~


 遠くで煙がたなびいている。

 (いくさ)さながらの喧騒(けんそう)が、微かに聞こえてくる。


 雪村が向かったという徳山の居城、伏見城(ふしみじょう)

 その城が炎に包まれている事に気付いた信倖は、まだ地上に降り切らぬ神龍から飛び降り、無我夢中で駆け出した。


 逃げ(まど)う群衆に押し流されそうになりながらも、必死で城の近くまで辿(たど)り着く。

 しかし城門は固く閉ざされ、周囲は武装した軍に取り囲まれていた。


「これはいったい……?」

「我々にも、訳が分からないのです。神子姫護衛(ごえい)の為、城の警備を固めるようにと指示されていたのですが……城から突然、火の手が」

「護衛ならば、姫をお助けすべきでしょう! 何をしている!!」

「このまま守りを固めよと、上から指示があったのです。ところで貴殿(きでん)は」


 素性を問われる前にその場を離れ、信倖は搦手門(からめてもん)へと回った。

 ここも多数の兵に固められている。


 いざとなったら(へい)を上るか、と入り込めそうな場所を探していると、突然、ぐいと腕が引かれた。

 驚いて振り向くと、真剣な面持(おもも)ちの小夏姫(こなつひめ)が きっと信倖を見上げている。

 紺の小袖に灰の(はかま)、少年のような()()ちだ。


「小夏姫。どうしてここに」

「信倖様こそ。……雪様が桜姫を危地に()る訳がありません。ここに居るのは雪様だわ」


 確信している様子の小夏姫は、信倖の腕を引いたまま正門へと向かった。


「姫、正面突破は無理……!」

「小夏が養父上様(ちちうえさま)に会いに来ました。ここを開けなさい!」


 声を張る小夏姫を、群がった兵たちが慌てて止める。


大殿(おおとの)様は()られません。ここは火が回っていて危険です、お下がり下さい」

「居ない!? 嘘をおっしゃい! 養父上様が、か弱い女子を閉じ込めて、(おの)が身の安全を図るような卑怯者だとでも言うのですか!? この不届者(ふとどきもの)!! 神子姫を焼き殺したとなれば、それこそ何が起こるか判りません。山神様の怒りどころか、毘沙門天の天罰が下るかも知れない。養父上様をお(いさ)めしなければ!」

「いや、しかし」

「黙れ! ならばお前が説得して来なさい! この国に神罰が下った時に、徳山は責任を取れるのか! そもそも養父上様の御歳ならば、とっくに()けておられてもおかしくない!」


 言っている事は無茶苦茶だが、父親(ゆず)りの迫力で糾弾する小夏姫に、警護の兵たちは(ひる)んでいる。

 その(すき)を突き、小夏姫は信倖の腕を掴んだまま門の中へと押し入った。



 +++


 城内では激しい炎が乱舞していた。立ち込める煙が辺りを(おお)い、容赦なく二人の視界を(ふさ)ぐ。二階へと続く階段の途中で、けふんと()き込んだ小夏姫を()(とど)め、信倖は微笑んだ。


「小夏姫、お気遣いに感謝します。この先は危険ですから、どうかここまでで」

「信倖様。伏見城の内部構造はお分りですか? ここは信倖様の父君様にけちょんけちょんにされた家靖様が、悔しまぎれに上田城下を真似(まね)て作った迷宮ですよ」

「……大丈夫です」


 たぶん。

 その言葉を呑み込んで、信倖は手摺(てすり)を燃やす炎の中に手を突っ込んだ。

 そして驚いている小夏姫の前に、火傷のない掌を(かざ)す。


「この炎は炎虎の霊炎。真木の血筋を焼くことは出来ません。どうぞご安心を」

「……わかりました。どうか信倖様、必ず、必ず雪様をお連れ戻し下さいませ!」


 小夏姫、どう見ても、僕より雪村との方が仲が良さそうなんだよなぁ。

 例えば僕が危機に(おちい)っても、ここまで心配してくれるのかな。


 内心苦笑して、信倖は小夏姫を 来た方向へと押し戻した。




「さてと」


 信倖は改めて、炎逆巻(さかま)く城内を見渡した。

 炎虎の炎は真木の身を焼かないが、煙に巻かれれば無事では済まない。


 早く見つけなければ。

 信倖以上に、この城には不案内なのだ。


 雪村も『彼女』も。


 (そで)で口元を押さえ、信倖は燃え盛る階段を駆け上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ