367.異世界・関ケ原21 ~side K~
分けるには短いので、前半に信倖視点が入っています
三柱の神龍を従えた上森影勝が突然、沼田城の城内に降り立ち、評定の最中だった信倖は、唖然として庭に駆け下りた。
「上森殿? これはいったい」
「桜姫が、拐かされた」
「ええっ!?」
『徳山は小山で軍を止めた。そのまま撤退する素振りがある』と、放った間者から報せは受けている。越後に攻め込まれた訳でもないのに、どうして?
顔色を変えた信倖は、続く影勝の台詞に、更に顔色を変えた。
「正確には桜姫を装った雪村が、徳山のもとへ赴いた。俺は急ぎ、上方へ向かう。真木殿も 疾く支度を」
「ええっ!? 雪村は上田に居る筈では……いったいどうして」
「……聞いていないのか?」
驚く影勝を、信倖は愕然と見返す。
上森殿はこの件を、聞いていたの!?
報連相を怠る子だとは思っていたけど、まさか 上森殿>兄なの?
それってひどくない!?
いったい何時になったら、僕にちゃんと報連相をするようになるのさ!
いや、今はそこに怒っている時ではない。
聞けば雪村は、桜姫を守る為に動いているという。
「徳山は桜姫を山神の生贄に捧げようと画策し、生家の上森をも滅ぼそうとした。今回を凌いでもこの先、このような事態は再発する。それを防ぐ為に、今、徳山に楔を打つ。それが、桜姫を守護する真木の役目だと言っていたと」
その為に、雪村は桜姫の身代わりとなり、上方に向かったという。
言っている事はご立派だけど、報連相はちゃんとしておいてよ。
会ったらお説教だからね?
憤慨しながら神龍の背を借り、信倖は影勝とともに上方へと向かった。
+++
徳山との挟み討ちを防ぐ為とはいえ、決行した場合は惣無事令に抵触していた茂上攻めが、美成の尽力で勅旨での戦になった。
形勢が逆転した。
今度は己が賊軍になりかねない状況だ。徳山に組していた大名たちも、上森討伐に二の足を踏んでいる。
『茂上に朝廷への逆心あり。速やかにこれを平定せよ』
勅旨に従い、兼継は徳山迎撃の為に編成していた一軍を率いて、出羽へ出陣する事になった。
雪から贈られた織紐で鎧の肩上を縛り、兼継はふと表情を綻ばせた。
離れていても、雪の心はここにある。
この戦が終わったら祝言を上げよう。
あの夜、そう 約束したのだ。
万が一の事態に備え、国境の守りを任された泉水が、口を尖らせ溜息を吐いた。
「絶対に徳山は攻めてこないよ。影勝様は心配性だよなぁ」
「国境の守りを進言したのは私ですよ。徳山は、桜姫の身柄を欲しがっています。城が手薄となれば、勅旨に反しても攻め寄せてくる可能性は十分にある」
「富士が噴火したら、自分の領地が只じゃ済まないってのは分かるけどさ。だからって朝廷の意向に背いてまでやるかねぇ?」
「山神の怒りなど、言い訳に過ぎないのかも知れませんからね」
くだらぬ事で戦を起こすものだ。
霊力のあるなしに、どれほどの意味があるのか。
まったく無い者であっても、何ら支障なく生きているではないか。
自分には解せぬ話でも、本人にとっては深刻な何かがあるのだろうか。
……霊力が低い、という事は。
そっと左胸近くに結わえた織紐を撫で、兼継は泉水に向き直った。
「追い詰められた者は、何を仕出かすか判りません。早々に片を付けましょう」




