364.異世界・関ヶ原18 ~上田城~
歴史が変わった。けれど『関ケ原』が回避できた訳じゃない。
美成殿の挙兵が無くても『上田城籠城戦』は勃発する。
何故なら『北の関ケ原』――慶長出羽合戦は発生しているからだ。
徳山軍が小山の支城で軍を止めたのを見計らい、私は家臣たちを集めて評定を開いていた。
ここは家臣たち皆で乗り切って貰わなければならないターンだ。
「ここにはいずれ、徳山軍が攻めてくる。だが徳山家靖が伏見に戻るまでの抑えだから、時が過ぎれば撤退する。籠城してやり過ごす」
ただ、はるばる遠征して肩透かしを食らった軍は、血気逸っているだろう。
略奪目当てで、城下を踏み荒らされる可能性は十分にある。
とはいえ、それを甘んじて受ける謂れはない。
「ここは我々の領地だ。敵軍には少々痛い目を見て貰って、早々にお帰りいただこうか。城下に罠を仕掛けてある。詳しくは佐助から説明させよう」
この日に備えて、出来る限りの準備はした。
銃や火薬、食料の備蓄は勿論のこと、佐助たちのアイデアで作った 小路を迷路のように惑わせる竹柵や、その手前に掘った落とし穴。
効果的に敵軍の側面を襲えるように、寺院や民家に兵を潜ませる手配もしたし、現世の真田さんの策を真似て、増水させた川の勢いで敵を押し流せるよう、上流で水を堰き止める手筈も整えた。
現代人なら吃驚するようなお粗末さだろうけど、ここは戦国時代風異世界。
『乱杭』という、足を引っ掛けて転ばせる紐でも武器としてまかり通るような時代だから、仕掛けなんてこんなモノでも良いのです。
まあ、私に「近代的な武器を作るスキルが無い」のが最大の理由ですが。
せっかく戦国時代風の世界に転移したんだから、そういうスキルをチート能力として付与してくれても良かったのに……と思いますが、あくまでここは乙女ゲームの世界。
ジャンルが変わりそうなチートは不可だったのでしょう。
そして史実でもゲームでも、この『上田城籠城戦』はこちらが勝利する。
『歴史の修正力』をも味方につけた『私は無敵』のターンなのです。
「私はこれから、やらなければならない事があるから行くよ。兄上も居なくて申し訳ないけれど、皆、よろしく頼む」
兄上は今、沼田で戦の采配をしている。
家臣だけに、上田の籠城戦を任せる事になってしまうけれど……
家老の宇野と六郎が、真剣な顔で頷く。
怪我が癒えた後、上田に来てくれた小介が、面頬を手にしてにかりと笑った。
「お任せ下さい。奈山小介、立派に雪村様の影武者を務めてみせますよ」
面頬は、顔を隠す防具だ。
何も言わないけれど、きっと小介はこの戦が終わった後『本物の雪村』が戻ってくると気付いている。
私のこと、ずっと黙っていてくれてありがとう。
言葉にはしないまま笑って頷いて、私は上田城を後にした。




