361.異世界・関ヶ原15 ~上方~
「徳山が越後を攻めた場合、茂上が邪魔でしたからね。上森が背後の憂いを絶つには都合が良かったのですよ。これも策です、策」
「嘘をつけ! 茂上から誓書を取り忘れていただけだろうが!」
鎮西を訪れた際に『鬼』を使役する志摩家、『風神』と『雷神』を使役する橘家から誓書を取った美成は、小田原征伐の折に、真木・上森・東条から。そして白猿の一件で会った館からも誓書を受け取っていたが、茂上とは直接、接触する機会が無かった。
仕方なく文を送る事にしたのだが……
「いえいえ。茂上殿を仲間はずれになどしていませんよ? きちんと誓書の要請はしましたが、けんもほろろに断られてしまったのです。シカタガナカッタノデスヨ」
「そりゃ、あんな文が届けばな……」
すっとぼけた美成に、清雅が頭を抱えて吐息をつく。
神妖寮創設の根回しと平行して送りつけた、茂上宛ての文。
『お前のところの霊獣二柱を召し上げる。さっさと誓書を送れ』と、そんな一方的で居丈高な文が『上方で富豊の威を借る』治部少輔から届いたのだ。
それでなくとも富豊と確執がある茂上が、従う訳がない。
承諾されたら策が成らないとはいえ、物凄い煽りっぷりだったな……
すべてが終わった後は、茂上に対しての寛大な措置を進言しなければ。
失礼すぎる文面と、それを作成している嬉々とした美成の様子を知る清雅は、心のうちで茂上に同情した。
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「これで上森は官軍、形勢逆転ですよ。そして山の噴火を抑えるには、地熱を操る真木の『炎虎』東条の『獅子』の能力が鍵となる。これが【神妖寮】の最初の任務となるでしょう。霊力の低い有象無象が「天変地異を抑える」ですって? 臍で茶が沸きますよ」
「茶でも風呂でも沸かしていいから、いい加減、次に移ろう。やるべき事はたくさんあるんだ」
ふははとドS全開で哄笑する美成を制し、清雅が向きなおる。
その視線にひとつ頷き、表情を引き締めた舞田歳家が立ち上がった。
泰然とした舞田の姿に、先日までの病魔の影は微塵も無い。
「美成。徳山・上森以外の三大老・五奉行で、再度「内府ちかひの条々」を発布する。清雅は手筈通りに」
「「はっ」」
朗々とした張りのある声に、美成と清雅は喜びを押し隠して平伏した。
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「公卿の姫君たちもお味方くださったのですよ。「戦が起これば、越後毘沙門隊も新作どころではなくなりますね」と呟いただけで、効果は抜群でした」
うふふと微笑む政所の前で、美成と清雅は同時に首を傾げた。
『エチゴビシャモンタイ』とはどこの軍だろう?
秀夜への『白猿』の継承と【神妖寮】創設の根回し。
静かに隠居生活を送っていた政所は、精力的に力を貸してくれたが、予想以上に事が早く進んだのは、公卿衆が積極的に動いたことも大きいようだ。
不思議そうな顔をして、清雅が口を開く。
「こう申しては何ですが、邸の奥深くで大切に育てられているだけの公卿の姫君達に、そのような力があるのですか?」
「そうねぇ。美成、清雅、よく覚えておきなさい。『萌』というのは時に、大きな力を生むものよ?」
「「はあ」」
『モエ』とは何だ?
不思議そうに首を傾げる美成と清雅を交互に見遣った政所は、袖で口元を隠してころころと笑った。
「貴方たちなら『越後毘沙門隊』よりも『尾張桃母衣衆』の餌食になりそうね?」
「「はあ?」」
また知らない軍の名が出てきたぞ?
訳が解らぬまま、美成と清雅は顔を見合わせた。
すごく前に書いた設定説明
越後毘沙門隊:越後侍女衆のサークル名。取り扱いはオールジャンル
尾張桃母衣衆:尾張のサークル。BLメイン




